「公共交通をどう守るか」 高齢化で必要性高まるバス
バスや鉄道など地域住民の足に不可欠な公共交通をどう守るか。全国の地方新聞社と共同通信社が識者らとつくる「地域再生列島ネット」は、第7回意見交換のテーマに「公共交通の維持」を選んだ。首長ら4人に、車を運転しない高齢者の増加で必要性が高まるバス路線維持策など行政の取り組みを中心に意見を聞いた。
―地方の公共交通があちこちで消えている。
黒木定蔵・宮崎県西米良村長 約10年前にJRがバス事業から撤退、タクシーも1台だけになった。お年寄りらにバスは欠かせない。村の高齢化率は42%、運転免許証の返納などで公共交通の必要性は高まっている。
田中幹夫・富山県南砺市長 時間帯や路線によっては「空気」を運んでいるだけのバスがある。高齢化や観光客の足を考えると、公共交通の使い勝手を良くしなければならないと認識している。
小林敬典・鳥取県政策企画総室長 県内のバス利用者はピークに比べ10%に減った。マイカーが公共交通代わりで、鳥取県は軽自動車の普及率が全国一。脆弱(ぜいじゃく)だがバスや鉄道は必要な公共財だ。
西尾真治・埼玉ローカルマニフェスト推進ネットワーク事務局次長 今後団塊世代が多い大都市部で高齢化が進むため、都市部でも足の確保は大きな課題になる。住民の高齢化で通学・通勤客が減り、バス路線が消えたニュータウンもある。
▽初の公有民営鉄道
―打開策はあるか。
黒木氏 周辺の市に向かう村外バス路線は業者に運行してもらっているが、赤字補てん額は年間1千万円。村内は村営だが年間約2千万円の赤字。財源は節約の徹底で、村の温泉施設の清掃は住民の協力で格安、業者より年間3千万円浮く。バスの赤字分はちゃらとも言える。
小林氏 県内の第三セクター若桜鉄道が今年4月、駅舎などを自治体が所有、鉄道会社が運行する全国初の上下分離(公有民営化)方式でスタートした。路線バスは幹線と、幹線の停留所を起点に各集落を結ぶ支線に分離するなど多様だ。
田中氏 市内の合掌造りの集落がミシュランの観光ガイドに紹介されて以来、外国人の観光客が増えた。2014年度末予定の北陸新幹線長野―金沢開通をにらみ、金沢などからバスで来られるようにしたい。市内のバスは(病院など)拠点を回り、乗車率を高める運行を検討したい。
―成果と課題は何か。
小林氏 若桜鉄道は住民が積極的にかかわり、蒸気機関車(SL)の復元や転車台など旧施設が登録有形文化財になって観光客の誘致もしている。同じ第三セクターの智頭急行は特急の運行で収益を上げているが、高速道路料金が無料化されれば大きな打撃。交通政策を一本化すべきだ。
黒木氏 村営バスは近隣自治体と協力して乗り継ぎを便利にした。車体も細い道を通れるよう小型化した結果、乗車率が上がった。70歳以上には無料のバス券も配っている。採算は合わなくてもやらざるを得ない。
西尾氏 採算が合わない路線を引き継ぐのだから、赤字は仕方ない。問題は赤字をどう負担するか。「官」の丸抱えでは、事業内容があいまいになる。住民の力を活用することが大事だ。
▽まちづくりと一体
―国への要望は。
田中氏 バス事業者に市が補助をしている。採算が合わないからとやめるわけにはいかない。国や県には従来通りの財政支援をお願いしたい。
黒木氏 市町村も努力するが、地方交付税や交付金で支援してほしい。ただ、政策が都市型の民主党政権では中山間地域には恩恵が薄い。バスには道路整備が必要。高速道路の無料化も愚策で、バス業者の経営が苦しくなればこちらにしわ寄せが来るのではと不安だ。
小林氏 路線バスの維持などで市町村の負担が増加している。2008年度から、コミュニティーバスの実証運行や車両購入などに国の半額補助が始まったが、事業立ち上げの3年間だけ。長期的な財政支援が必要だ。
―今後の在り方は。
黒木氏 住民主体の運行は、事故の責任を考えると難しい。行政や業者、住民のタイアップを考えないといけない。
田中氏 公共交通の在り方とは、「まちづくり」を考えることだ。免許を返上したお年寄りの「生活の足」をどう確保するかといった福祉の部分も必要だ。
小林氏 地域一体で交通体系を考えないといけない。鉄道は広域連携も必要になるだろう。
西尾氏 遠回りだが、都市と地方の交流を増やすしかない。地方はつらさを訴えるより、都市からみて魅力ある地域の維持に支援が必要と分かってもらう努力が重要だ。
バス路線の廃止 乗り合いバスは全国で約40万キロの路線運行が許可されているが、最近は国へ路線廃止を届け出るケースが増加しており、2008年度は過去10年間で最大となる1万9811キロの廃止届けがあった。国土交通省によると、大半は業者の交代や市町村運営のコミュニティーバスに切り替えるなどして路線自体は維持されているとみられるが、運行本数が削減された場合もある。ここ最近までは、乗客への影響を懸念して運賃を据え置く会社が多かったが、08年度は、この5年間で最多の13社が値上げに踏み切り、原油高や乗客減が響いている。
◎地宝人
「地域再生列島ネット」に参加した多彩な人たちを「地・宝・人(ち・ほう・じん)」と名づけた。その活動と横顔を順次、紹介する。
地域を担う人材育成に力を入れる白戸洋・松本大教授

研究室には学生があふれていた。テーブルで話し合うグループや、資料を読みふけったり、パソコンを前に考え込む人も。一人一人を名前で呼び冗談を言う姿を「お父さんみたいな存在」と、女子学生の一人は笑った。
ただ、教員を目指していた訳ではないという。横浜市で生まれ、大学卒業後、海外で政府開発援助(ODA)などの仕事に携わった。もっと勉強をとの思いがもたげ、尊敬する地域づくりの専門家に教えを請おうと、1991年に長野県松本市に家族で移住。2002年に松本大に加わった。
多彩な経験から培った柔軟な発想が、学生を引っ張る。「まちづくりがメーンテーマ」と話し、積極的に地域を歩く。地元の伝統野菜を使ったカップどんぶりのコンビニ販売や、障害者と力を合わせたそば栽培―。次々と取り組むユニークな活動は、住民との話し合いから生まれてきた。
学生たちも住民を先生役に地域社会に飛び込む。「みんなおせっかいだから、学生の世話を焼くんだ」といい、初めはあいさつがやっとだった若者が、まちの活動を進んで手伝い、アイデアを出すようになるという。
「まちをつくるのは人の心」。だから、地域活性化の早道は「審議会で意見を述べるより、本気で取り組む人間を育てること」と言い切り、地元に根を張る学生を送り出す仕事にかける。50歳。
にぎわいづくりに励む伊豆哲也・まちづくり機構ユマニテさが常務理事

「ビルが建ち並んでいなくていい。落ち着いて歩けて、楽しめる街並みにしたい」。古里・佐賀市の将来を語る口調は熱を帯びる。「楽観的なんです。取り組みを積み重ねていけば、必ず実現できるはず」と明快だ。
東京や関西で経営コンサルタントとして働いていたが、母親の体調が悪化し帰郷。高校卒業以来、久しぶりに住んだ古里で店をのぞくと、少子高齢化など環境は変わったのに、品ぞろえは「お年寄りから子ども向けまで全方位外交」。客が誰なのか分からない状況では、郊外の大型店との競争は厳しいと感じた。
自身の事務所を開く一方、佐賀商工会議所で経営相談も始めた。2006年には、同商議所のまちづくり組織「TMO佐賀」のタウンマネジャーに。にぎわいを取り戻そうと、市内に400体以上あるというえびす像にちなむイベントや、画廊を集めた地図づくりなど、まちに眠る「資源」の発掘に知恵を絞る。
09年秋には、TMOが特定非営利活動法人(NPO法人)「まちづくり機構ユマニテさが」に衣替え、より積極的に事業展開できる体制を整えた。まずは中心市街地の空き店舗解消。脱サラ組らの指導に力を入れ、目標とした09年度中の10店舗出店は可能と胸を張る。
子どもたちを育てる活動にも力を入れる。「いろんな人が移り住んでくれるまち」が目標だ。56歳。

