第7部 足を守る
鰺ケ沢町 「全住民参加」
暖かな朝となった昨年12月初め、小さなバスが青森県鰺ケ沢町(あじがさわまち)の山あいの深谷集落を出発した。「今日はお客が少ないな」。乗り込んだ滝吉和俊(たきよし・かずとし)・深谷町会長(64)は表情を曇らせた。日本海に面した町中心部まで約15キロ。サルが出没し、車が擦れ違えない道が続く。
「診療科目のせいなんでしょうかね。金曜日なら町立病院に通うお年寄りが何人か乗って、もっとにぎやかなんですけれど」。運転手の木村輝光(きむら・てるみつ)さん(56)は話した。
▽命綱の路線
この深谷線を支えるのは、全国的にも珍しい「住民参加方式」だ。地区の三つの集落が町とバス会社「弘南バス」(青森県弘前市)と協議会をつくり、運行方式を決定。代わりに、3集落の全60世帯がそろって、毎月2千円分の回数券を購入する。乗客数にかかわらず、弘南バスに一定の収入が入る仕組みだ。
「もちろん、ほとんどバスに乗らない人もいる。でも、この路線は地区の命綱。回数券の購入に反対する家はない」。滝吉さんは力を込める。
かつて、地区にはバス路線がなかった。最寄りのバス停まで8キロ歩かねばならない人もいた。住民らは採算が取れないと渋るバス会社と話し合い、1993年、現在の方式を導入することで悲願の路線開設にこぎつけた。
しかし、運行環境は厳しさを増している。当初は上り下り合わせて1日10便が走り、回数券の購入額は月千円だった。しかし、少子化と人口減少で利用者が目減りし、2005年には世帯の負担を倍に増やす一方、便数は4便に減らした。
町は09年度、深谷線を含む町内のバス路線の維持のために約2千万円を支出した。だが、町の財政指標は県内最下位クラスとあって「いつまで支えられるか」(鰺ケ沢町政策推進課)と、ため息が漏れる。
▽活性化にも挑む
ただ、住民参加方式のバスは貴重な副産物も生んだ。弘前大学の山下祐介(やました・ゆうすけ)准教授(40)の呼び掛けで、学生と町、沿線3集落の代表らが07年、深谷地区活性化委員会を設立。ブナ林を活用した観光客との交流事業や、豊富なキノコ・山菜など山の幸の販売を模索する。
山下准教授は「その都度、利用に応じて走るデマンド型の交通機関と異なり、路線バスは独特の安心感をもたらす」と指摘。「深谷では路線維持を考える枠組みが、地区の将来そのものを考える営みにつながった」と評価する。町の協力も得て、集落外へ移住した人々の郷里への思いと地元の活動を結ぼうと、計画づくりが始まろうとしている。(東奥日報社、文と写真・櫛引素夫)
路線バスの輸送人員 国土交通省のまとめによると、全国の路線バスは1970年度、約100億人の乗客を運んでいた。しかし、2008年度には半数以下の43億人にまで減少。一方で、マイカーの利用者は95億人から600億人に増えた。
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第13回 7月下旬予定

