第2部 新たな力
石見銀山 「空き家を社員寮」
アジアの鉱山遺跡で初の世界遺産に登録された島根県大田市の石見(いわみ)銀山遺跡。山あいにある同市大森町の江戸時代からの町並み保存地区に、ゆったりした時が流れる。
「すごい」「面白い」。修復した武家屋敷で、上村亜子(かみむら・あこ)さん(34)と長女の菜(さい)さん(9)ら、同町に本社を構える義肢装具メーカー「中村ブレイス」の社員の家族が歓声を上げた。
社長の中村俊郎(なかむら・としろう)さん(61)は16世紀、欧州製のアジアの古地図に石見銀山が記されていることを説明。「世界史の中で銀山が果たした役割と魅力を子どもたちに語り継ぎたい」とほほ笑んだ。
▽空き家を社員寮
大森町の人口は408人。65歳以上の住民が38%を占める。中村さんは1996年から島根県などの世界遺産登録運動を民間の立場で強力に支援し、社員65人とともに文化財を保全活用するまちづくりの原動力を担う。
本社に隣接する石見銀山資料館の理事長を務め、老朽化した資料館を大改修。過疎化で空き家となり、廃屋の危機にあった古民家を次々と購入。社員寮や喫茶店として30軒を再生し、伝統ある町並みの保存を果たした。
さらに、石見銀で作られた古丁銀をはじめ、石見や佐渡などを描いた鉱山絵巻など貴重な資料100点を収集所蔵。県外に流出した古文書を里帰りさせ銀山の歴史的な価値をアピールしてきた。
「明治生まれの亡父からもらった夢を大切にしたかった」。中村さんは振り返る。古里への愛着は、同資料館館長を務め「世界の銀山」だと価値を確信していた父・章一(しょういち)さんの思いと重なる。
▽小学校維持に力
中村さんは米国で義肢装具士の修業をして帰郷、35年前に一人で起業。世界8カ国で特許を得たシリコーンゴム製の靴の中敷きを始め、乳がん患者の人工乳房などを製作。確かな技術と仕事ぶりが評価され、顧客は国内外に拡大。2008年度の年商が8億5千万円となる企業を築いた。
地域に根を張り、病や事故に遭った人々を支える心のこもった「ものづくり」にこだわった仕事への姿勢は、まちづくりでも変わらない。全戸が加盟し半世紀の間、歴史遺産を保護してきた大森町文化財保存会会長・吉岡寛(よしおか・ひろし)さん(80)は同社を「修理が必要な建物が非常に多く、自治会では手が出せない」と感謝する。
同社は社員と家族に同町への定住を促し、統廃合の危機にさらされる大森小学校(全校児童12人)の存続にも取り組む。古里への愛情と誇りを胸に、人類共通の宝に磨きをかける挑戦が地域に活力を注入している。(山陰中央新報社、文・引野道生、写真・小滝達也)
石見銀山遺跡 戦国時代から銀を産出した日本を代表する鉱山遺跡。戦国武将が領有を争い、石見銀は東アジアを舞台とする国際貿易に使われた。東洋と西洋の経済文化交流を生み出し2007年7月、日本で14番目の世界遺産に登録された。
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地域再生列島ネットから
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第13回 7月下旬予定

