第1部 新時代の手掛かりを
四万十 「農家108人株式会社」
愛媛県境に近い四万十川支流の山あい。日用雑貨や食料品、肥料などが並ぶ店内に山村ののどかな空気が広がる。住民が出資した株式会社「大宮産業」。暮らしを支える地域のとりでだ。高知県四万十市西土佐の大宮地区。人口約300人、65歳以上の住民は45%近い。半数以上の世帯が農業を営み、コメを中心にナスやシシトウなどを生産している。
▽株式会社を決断
同地区に大きな転機が訪れたのは2005年。農業生産の減少などに伴い、JAが出先機関の統廃合を打ち出した。地区を挙げて反対したが訴えは届かず、大宮出張所の廃止が決まった。出張所は地区で唯一、日用品のほかガソリンや軽油、農業資材を販売。車など交通手段を持たない高齢者や農家にとって「生命線」だった。「出張所を引き継ぐしかない」。窮地に追い込まれた住民に他の選択肢はなかった。協議を重ねる中、一時は農事組合法人化も検討したが、日用品販売に法規制があり断念。最終的な結論は株式会社の設立だった。約8割の世帯、 108人 が平均6万円余りを出資して700万円を確保。06年5月、住民が株主、取締役となる「大宮産業」が誕生した。県の補助金を活用して店舗や給油施設をJAから買い取り、社員とパートも1人ずつ雇った。店は残った。「田舎は捨てられるのか、と思った。みんなで心を一つにして自分たちの会社をもり立てていきたい」。株主でもある西岡寅男(にしおか・とらお)さん(72)は、会社への愛着を強調する。住民らの思い入れにも支えられ、設立後3年連続で黒字。08年度は1日平均76人の客が訪れ、売上高5116万円で、約2万8千円の黒字を達成した。
▽新たな事業も
だが、地域の厳しい状況は変わらない。過疎化が進めば利用客も減る。「住民に必要とされる役割を果たさなければ」。竹葉伝(たけば・つたえ)社長(64)らは、会社維持へ新たな事業展開にも取り組む。6月からは住民から要望があった宅配サービスを開始。地元農産物の販路拡大にも乗り出し、高知市内の中学、高校2校へ地元産の「大宮米」の納入を始め、四万十市内の学校給食にも広げた。「農業者の自分らは一生、地域から逃げられない。次の世代に暮らしをつないでいくためにも、今ここで生きる基盤をつくっておきたい」。竹葉社長は力を込める。ことし大宮地区で約5年ぶりに新しい命が誕生した。大宮産業は地域を守る知恵の結集であり、地域自立の方向性も示唆している。(高知新聞社、文・横山仁美、写真・佐藤邦昭)
消滅する集落 国土交通省の2006年全国調査によると、1999年から7年間で191集落が消滅し、過疎集落6万2273のうち2643集落が、将来消滅の恐れがある。限界集落化して自然消滅する例が多く、衰退が加速している。
- 第12部 刺激を手掛かりに
- 【01】秋田市 「地域活性化の源泉」【秋田魁新報】
- 【02】金沢市 「先人の志を継承」【北國新聞】
- 【03】別府市 「温泉街に貢献」【大分合同新聞】
- 【04】まとめ 「留学生定着へ支援を」【共同通信】
- 第11部 医療を支える
- 【01】遠野市 「遠隔医療」【岩手日報】
- 【02】小鹿野町 「在宅ケア」【埼玉新聞】
- 【03】多治見市 「新型ドクターカー」【岐阜新聞】
- 【04】まとめ 「再建は急務」【共同通信】
- 第10部 財政の挑戦
- 【01】上越市 「地域活動資金」【新潟日報】
- 【02】安芸太田町 「ケチケチ作戦」【中国新聞】
- 【03】宮崎市 「地コミ税」【宮崎日日新聞】
- 【04】まとめ 自前の「財布」【共同通信】
- 第9部 人集うまちに
- 【01】坂井市 「地産地消」【福井新聞】
- 【02】高松市 「黒船来航」【四国新聞】
- 【03】対馬市 「韓国と交流」【長崎新聞】
- 【04】まとめ 「休日分散」【共同通信】
- 第8部 農を開く
- 【01】福島 「輸出に活路」【福島民友新聞】
- 【02】静岡 「アメーラ」【静岡新聞】
- 【03】熊本 「米粉メロンパン」【熊本日日新聞】
- 【04】まとめ 「知恵活用と連携」【共同通信】
- 第7部 足を守る
- 【01】鰺ケ沢町 「全住民参加」【東奥日報】
- 【02】富山 「攻めの投資」【北日本新聞】
- 【03】四国中央市 「デマンドタク」【愛媛新聞】
- 【04】まとめ 「移動の権利」【共同通信】
- 第6部 子育てを支える
- 【01】東通村 「公営塾」【デーリー東北新聞】
- 【02】山形 「協働」【山形新聞】
- 【03】群馬 挑戦【上毛新聞】
- 【04】まとめ 空回り【共同通信】
- 第5部 新たなしるべ
- 【01】室蘭 ボルト人形「ボルタ」【室蘭民報】
- 【02】美作 「温泉街に女子サッカー」【山陽新聞】
- 【03】鳥取 「芝生化効果」【新日本海新聞】
- 【04】まとめ 「メセナが再び」【共同通信】
- 第4部 地方議会動く
- 【01】蔵王 「会期は通年」【河北新報】
- 【02】山梨学院大 「町議会と協定」【山梨日日新聞】
- 【03】鳴門 「市議の大量逮捕」【徳島新聞】
- 【04】まとめ 「八百長と学芸会」【共同通信】
- 第3部 「自力で開く」
- 【01】喜多方 「5ミクロンの微生物」【福島民報】
- 【02】神戸 「大手の下請け返上」【神戸新聞】
- 【03】有田 「究極のラーメン鉢」【佐賀新聞】
- 【04】まとめ 「開発秘話」【共同通信】
- 第2部 新たな力
- 【01】白馬 「外国人経営」【信濃毎日新聞】
- 【02】祇園 「クギ1本」【京都新聞】
- 【03】石見銀山 「空き家を社員寮」【山陰中央新報】
- 【04】まとめ 「リーダー育成」【共同通信】
- 第1部 新時代の手掛かりを
- 【01】夕張 「移住体験」【北海道新聞】
- 【02】鬼怒川 「中国へ売り込み」【下野新聞】
- 【03】四万十 「農家108人株式会社」【高知新聞】
- 【04】まとめ 「コミュニティ」【共同通信】
- 番外編「スコットランドの分権10年」
- 【01】「住民の目線で法案」【共同通信】
- 【02】「削減目標、世界一」【共同通信】
- 【03】「紡績工場が世界遺産」【共同通信】
- 【04】「失業者のいない村」【共同通信】
- 番外編 「地域再生列島ネットから」発足1周年記念シンポ
- 【01】報道を活用、売り込み展開 メンバー活動報告(1)【共同通信】
- 【02】学生を引き込み全国発信 メンバー活動報告(2)【共同通信】
- 【03】地域が自発的に行動を メンバー活動報告(3)【共同通信】
- 【04】きずなづくりに着眼 メンバー活動報告(4)【共同通信】
- 【05】熱意と人材育成が活力に 総務相交え、パネル討論【共同通信】
地域再生列島ネットから
- 12.『国際交流、インフラも課題』
【意見のまとめ】地域の良さ見直す機会に - 11.『地域への誇りが魅力に』
【意見のまとめ】高齢者の健康を地域で支えるには - 10.『自治体、財政情報公開を』
【意見のまとめ】財政に住民の声反映させるには - 9.『地域への誇りが魅力に』
【意見のまとめ】観光で人をひきつけるには - 8.『農業を再建するには?』
【意見のまとめ】安全性や連携が重要 - 7.【意見のまとめ】公共交通をどう守るか
- 6.『地方で子どもを増やすためには?』
【意見のまとめ】新住民ひきつける工夫を - 5.『文化を地域ビジネスにつなげるには?』
【意見のまとめ】資源を発見し情報発信を - 4.『期待される地方議員像は?』
【意見のまとめ】少数精鋭で首長と論戦を - 3.『(1)地域で活用できる経済的資源は?(2)新政権への期待は?』
【意見のまとめ】 情報発信、発想が自立の鍵 - 2.『地方自治体の新たな担い手は?』
【意見のまとめ】NPO、地域の顔に期待 - 1.『自治体の首長になったら?』
【意見のまとめ】鍵は愛着教育と特色づくり
第13回 7月下旬予定

