都会に茂る亜熱帯の木 シュロは温暖化の象徴
シイ、マツ、コナラ、ケヤキ…。武蔵野の面影をしのばせる風景が続く。しばらく歩くと突然、南国ムードに変わる。シュロの群生だ。亜熱帯性の樹木が、大都市・東京の真ん中で大きく葉を茂らせている。
「シュロは目に見える地球温暖化の象徴。ここには直径十センチ以上の木が一万二千本あるけど、そのうち千八百本を占める。十年後は倍増するでしょう」。東京都港区の国立科学博物館付属自然教育園は、町中で自然散策が楽しめる人気スポット。園内の植生を研究する萩原信介植物生態学研究主幹は、一九七〇年代を境に急増するシュロに注目してきた。
ヤシ科の中では耐寒性の高いシュロは、東北地方でも栽培できる。だが、冬も休まず光合成をするため、茎の一部が凍り、土からの水が葉に来なくなると、成木は大丈夫でも茎が細い芽生えは容易に死んでしまう。だから、昔はシュロがあまり増えず、園内にも自生していなかった。
それが、今なぜ。「このグラフを見て」。萩原主幹が指さすパソコンの画面には、東京、ニューヨーク、パリの一九〇〇―二〇〇〇年の平均気温の変化が。百年間で世界の平均は〇・八度近く上がったが、パリは一度、ニューヨークは一・六度、東京は三度も上昇した。「冬だけみれば東京はプラス六度。人口密度が高くて、車も冷暖房も多い。大都会は地球温暖化を先取りしている」
環境異変を体現するシュロの急増だが、自然は大事な役割も与えた。冬の光合成能力による年間を通じた二酸化炭素の吸収だ。「今の大都市生態系を考えると、最強のピンチヒッターです」と萩原主幹は話す。(東京新聞、文・写真、栃尾敏)
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シュロ 平安時代に中国から渡来した。幹の高さは成木で七―八メートル。黒褐色の毛状繊維で上部が覆われ、葉はくま手形に広がる。毛は腐りにくく田植え縄として農家の必需品になり、丈夫な繊維は、たわしなどに利用される。幹は寺の鐘突き棒に使われた。