山を下りたヤマビル 住宅街の庭にまで潜む
泣きながら家に帰ってきた八歳の長男の足が血にまみれていた。靴下を脱がすと、血を吸って小指ほどにも膨らんだヤマビルが三匹も出てきた。神奈川県厚木市森の里に住む主婦の鈴木早苗(すずき・さなえ)さんは思わず悲鳴を上げた。
指でつまんではがしたが、血はなかなか止まらない。こんな吸血被害は人だけでなく、散歩中の犬にまで及ぶ。
ヤマビルは二〇〇〇年ごろ、同県北西部に位置する丹沢山塊中腹の清川村で確認されてから一気にその被害が拡大した。丹沢を望む都市部に近年開発された住宅街、森の里地区でも目撃情報は数年前から増え始め、今や、真新しい家の庭の片隅でも吸血の機会をうかがうまでになった。
山から住宅地へ、ヤマビルはどうやって急速に分布を広げたのか。ことし四月、神奈川県などが初めて行った総合調査で「シカが山から運んでくる」という説が裏付けられた。
地球温暖化の影響で冬に餓死するシカが減り、千五百頭が適正とされる丹沢に約四千頭がひしめく。シカは餌を求め、体についたヤマビルを落としながら住宅街へと移動する。林業不振や過疎化などで手入れ不足となった人工林だけでなく、都市部の雑木林の中にも、薄暗く、落ち葉が多いヤマビル好みのじめじめとした林床が広がる。
県自然環境保全センター(厚木市)の岩見光一(いわみ・みつかず)研究部長は「ヤマビルの増加は人の営みが山の環境を急速に変えたことが原因の一つ。薬剤散布だけでは効果は薄く、シカ対策を含めて荒れた森を回復させることが必要になってくる」と話している。(神奈川新聞社、文・佐野克之 写真・神奈川県提供)
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ヤマビル ミミズの仲間で体長二―八センチ。空気中のにおいや二酸化炭素を感知すると、吸盤を使って移動し、動物に吸い付く。一度、血を吸うと二年間は何も口にせずに生きるとみられている。血を吸うと一―二カ月後に袋状の膜に包まれた卵を産む。