柿崎明二 政治劣化考

進まない政策、動かない国会・・・。政治の劣化要因とその克服策を月一回、各地の有識者に語ってもらう。

柿崎明二氏

柿崎明二氏

柿崎明二(かきざき・めいじ)1961年秋田県生まれ。早大文学部卒。88年共同通信社入社。1993年から政治部で首相官邸、外務省、旧厚生省、民主党、自民党、社民党などを取材。2011年から編集委員。著書に「『次の首相』はこうして決まる」(講談社現代新書)、共著に「空白の宰相」(講談社)がある。

第7回 東京工業大教授・上田紀行氏

上田紀行氏=東京都大田区の自宅近く

▲上田紀行氏=東京都大田区の自宅近く

上田 紀行氏(うえだ・のりゆき)58年東京都生まれ。東京大大学院博士課程修了。専門は文化人類学。医学博士。近書に「生きる覚悟」(角川SSC新書)など。

日米開戦

―これは日本人に特有な傾向か。

 「ある意味、日本人論になる。約70年前、日米開戦に突っ込んで行ったのも似た構造だった。昭和16(1941)年、内閣の総力戦研究所が、対米戦争は『必敗』というシミュレーション結果を出すが、東条英機陸軍大臣は『机上の演習』と言ってしまった」

―なぜ現実を見なくなるのか。

 「日米開戦の前、勝ち続けていた。また、敗戦後の復興、その後は高度経済成長を成し遂げた。それぞれ恵まれた環境や条件もあったのだが、いつの間にかそれを忘れてしまい、勝つこと成長することが当然のようになってしまう。勝ち続け、成長し続けている時に、脆弱になってしまっているなにものかに常に目を向けなければいけない」

―政権交代には、それに目を向ける意味合いもあったのでは。

 「そうだが、民主党のマニフェスト(政権公約)自体甘かった。どこかで『見込みが甘かった、ごめんなさい。こういう方向に行きます』と言わなければならなかった。あるいは衆院を解散するべきだった。それをズルズル、『マニフェストは有効です』というような顔をし続けている。やばくなると首相の首をすげ替えてごまかすということが自民党政権だけでなく、民主党政権でも繰り返され、そっちの方が政治のリアリティーになってしまっている」

政治家、それを選ぶ国民も含めた社会のあり方について文化人類学者の上田紀行氏に尋ねた。

―政治、社会の現状をどう見るか。

 「最近、あかんと思ったのは、野田佳彦首相が関西電力大飯原発を再稼働させるにあたって『精神論だけでできるかというと、万が一ブラックアウト(大規模停電)が起きたら大変な悪影響が出る』と言ってしまったこと。再稼働に反対の人たちは精神論ではなく現実論を言っている」

 「活断層がある可能性が高い上に、大地震が起きやすい状況になっている。安全性を担保する組織もできていないし、電力会社や規制当局はやばいことを隠し続けている。もう一回、東京電力福島第1原発と同じような事故が起きたら日本は終わりだ。これこそが現実論だ。それを精神論と言ってしまった。恐るべき現実感覚、精神の貧困だ」

―現実認識から間違っていると。

 「野田首相の言う現実は『すでにあるもので、追随しなければいけないもの』だ。かつて(思想家の)丸山真男氏が、日本人にとっての現実は『つくり出していく』という感じがすごく弱い、と言ったが、その指摘はそのまま野田首相や今の政治家にあてはまる」

 「敗戦を経験した世代は、焼け野原から復興、成長していく様子を見ているので、現実をつくり出していくという感覚があった。しかし、敗戦を知らない世代は、そうではない。『原発がなくてもいい社会』をつくり出していかなければならないのに『今の社会は原発を必要としている』と思い込んで『原発がなくてもいい社会』を目指す人たちを精神論と言ってしまう」

強すぎる政治家の自己愛 気持ち良さ求める国民 未来考える愛国心を

「脆弱(ぜいじゃく)になってしまっているなにものかに目を向けて」と語る上田紀行氏=東京都大田区の自宅

▲「脆弱(ぜいじゃく)になってしまっているなにものかに目を向けて」と語る上田紀行氏=東京都大田区の自宅

垂直思考

―国民の側の課題は。

 「経済成長を背景に昭和30年代からバブル期まで、国民から『気持ち良さ』を求められ、それを与える政治が続いた。すでにかなり気持ち良い状態なのに、そんな傾向がいまだに続いている。もはや気持ち良さを増やすことはできないから国民は不機嫌になり、首相や政権を代えたりする。国民の側が、気持ち良さ以外の人生のあり方を持たなければならない」

―首相の首をすげ替えるとほかの人は免責される。無責任の極みかもしれない。

 「政治家も自己愛が強すぎる。国の持続可

能性よりも自分の政治家としての持続可能性を考えている。自分のこと、私のことしか考えない人たちが政治をやっている。未来なき政治だ。使用済み核燃料と国債の問題にそれがよく現れている。いずれも解決を未来に託す甘えの政治だ」

―どう政治に向き合うべきか。

 「自己愛を越えて本当の意味の愛国心を持たなければいけない。国に忠誠を誓って私を犠牲にすることではなく、将来世代のことを考えることだ。国土を含め、いい物を手渡していかないといけない。われわれの世代は放射能をばらまいてしまった。同じ世代のことを考えるという水平の思考から、将来世代のことを考える垂直の思考に変えていかないといけない」

現実つくり出す努力を 甘えの政治脱せ

 あるべき現実をつくり出そうとせず、望ましくない現状に追随する―。そんな「未来なき政治」に陥る要因に上田氏は「気持ち良さを求める国民」と「自己愛が強すぎる政治家」を挙げた。

 明日はより豊かになることが当たり前だった右肩上がりの時代、国民は物質的なものをはじめ気持ち良さの増大を政治家に求め、強すぎる自己愛を持つ政治家が自らの地位を維持するため、そんな欲求に応えていた。

 それはひとえに分配する利益を生むことができた経済成長が前提だったが、今や誰の目にも明らかなように、その前提は崩れ去っている。にもかかわらず、国民と政治家が、それぞれ「気持ち良さ欲

求」と「自己愛」を満たすため将来世代にツケを回す巨額の国債を積み上げてしまった。

 国債とともに上田氏は、原子力発電で生み出される使用済み核燃料を「解決を未来に託す甘えの政治」の象徴と指摘した。実際、現状のままでは増え続ける国債と使用済み核燃料をどう解決するのか、明確に応えられる政治家や官僚に会ったことがない。

 「将来世代のことを考える本当の意味の愛国心」を上田氏は促す。あるべき現実に向けて「気持ち良さ欲求」と「自己愛」という自らの現状を変える努力が国民と政治家に求められている。(共同通信編集委員 柿崎明二、2012年07月17日公開)

使用済み核燃料の保管状況
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