柿崎明二 政治劣化考

進まない政策、動かない国会・・・。政治の劣化要因とその克服策を月一回、各地の有識者に語ってもらう。

柿崎明二氏

柿崎明二氏

柿崎明二(かきざき・めいじ)1961年秋田県生まれ。早大文学部卒。88年共同通信社入社。1993年から政治部で首相官邸、外務省、旧厚生省、民主党、自民党、社民党などを取材。2011年から編集委員。著書に「『次の首相』はこうして決まる」(講談社現代新書)、共著に「空白の宰相」(講談社)がある。

第6回 日本総研主席研究員・藻谷浩介氏

藻谷浩介氏=東京・東新橋の共同通信社

▲藻谷浩介氏=東京・東新橋の共同通信社

藻谷 浩介氏(もたに・こうすけ)64年山口県出身。東大卒。政府の復興構想会議検討部会委員を務めた。著書に「デフレの正体」。

蒙古襲来

―なぜ先送りする。

 「日本人が失敗する時のパターンだ。蒙古襲来の後『人事を尽くせば神風が吹く』と思った。同じことが原発でも起きている。へたをすると1万年も冷やし続けなければならない使用済み核燃料のコストは無限大だ。それを増大させる再稼働に踏み切った。『いずれ再処理できる、最終処分場ができる』と思っている。足元の経済に打撃でも中期的な経済成長を考えれば止めた方がいい」

―人口減少にどう対処すればいいのか。

 「内政問題と思われているが、基本的には生物学的な事象だ。豊かになると出生率が落ち、増えすぎた人口が減るのはどこの国でも起きる。誰かや何かを打倒すれば解決する問題ではない」

―手はないのか。

 「住民の3分の1が移民のシンガポールでも現役世代は減り始めている。移民でも日本の人口減少を止めることは不可能だ。問題は3、4割減少の後に横ばいに持ち込めるかだが、男女とも若いうちは子育てを最優先するという社会構造に向け、雇用制度の刷新がカギとなる。企業がひとごとだと決め込み続ければ、日本人は際限なく縮小を続けかねない」

―消費税増税を目指す野田佳彦首相は多少、分かっているのでは。

 「そう期待するが、原発の拙速な再稼働を見て、戦略眼に疑いを覚えた。消費増税も、国債格下げを防ぐための国際金融界向けのポーズとしてやるのであり、税収増効果は乏しいであろうことを冷静に認識すべきだ」

政治が機能しなくなった構造的な要因を日本総研主席研究員の藻谷浩介氏に探ってもらった。

―経済や財政の問題に政治が対応できてない。

 「政治家にも経済人にも、現役世代が減少し高齢者が激増している現実認識がない。納税者や消費者が増えていた戦後半世紀と同じやり方では、今世紀の経済成長はあり得ないことを分かっていない人が大量にいる」

―分かっている政治家は少なくないと思うが。

 「現場を歩けば気付かないはずはないが、政策を議論する場に出ると安易な経済成長待望論に戻ってしまう。貨幣さえばらまけば、あるいは技術革新で全要素生産性を高くす

れば経済成長するというマクロ経済学の一般論に頼り、これだけ金融緩和をし、技術開発を続けているのに経済が成長しないという、日本の特殊な現実から目を背ける。企業も同じで、人口増加時代のやり方はもう通じないのに、経営戦略の刷新を先送りにしている」

―政治も同じか。

 「財政問題がそうだ。人口が減少しているところで税収不足を国債発行で補っていれば破綻は明らかだ。バブル期の国税収入でも今の歳出は賄えない。景気が良くなれば何とかなるというのは問題先送り。マクロ経済学が(痛みを緩和するだけの)モルヒネ化している」

「人口減」前提に 少子型人材育成必要 事実に基づき政策を

「人口減少は、基本的には生物学的な事象」と語る藻谷浩介氏=東京・東新橋の共同通信社

▲「人口減少は、基本的には生物学的な事象」と語る藻谷浩介氏=東京・東新橋の共同通信社

半分駄目に

―「分厚い中間層をつくる」とも言っている。

 「技術革新で経済成長を起こせば中間層が増えるという認識はプロセス不在で神風待望の呪文と同じだ。減りゆく現役世代の賃上げをトリガーとしなければ内需は増えず、円高の脅威にさらされ続ける外需に依存していては、中間層は形成されない」

―マクロ経済学以外の弊害はあるか。

 「日本人のメンタリティーを少子時代対応に変えないといけない。競争に勝った男性だけを登用する今のシステムは子どもが多い時代のもの。一定数を切り捨てればいいと錯覚し、他人を蹴落とすシステムに転化する。これでは半分を駄目にしてしまう」

 「優秀な女性はもちろんのこと、成績の悪い子でも障害がある人でも高齢者でも全員の社会参加が必要だし、そうできるはずだ。徒競走で一人だけ先にゴールする人材は無用。全員お手々つないで走りつつ、全体をベースアップさせることのできる人材こそ必要だ」

―最後に政治家に必要な素養は。

 「ファクト・ベースド・ポリシー、つまり事実がこうなっているからこういう政策をとるという姿勢が必要だ。過去のモデルが通用しなくなったという現実を国民に示し、ビジョンを創造し直す能力が必要だ」

 「このままではギリシャ化する。リーダーがつまみ食い的に選ばれ次々に放り出されて…。ただ、原発事故の修羅場を体験した政治家には期待したい。日本が一瞬、滅亡寸前までいったのを見た経験を踏まえて行動してほしい」

全員育てるシステムを 教示富む「下山の思考」

 人口増加時代の解決策は減少時代には通用しない―。一貫する藻谷氏の主張を支えるのは事実に基づいて解決策を模索する「ファクト・ベースド・ポリシー」だという。

 全国の市町村をくまなく歩き回るミクロの調査を積み重ねた上でマクロを考える。自分の足と目、耳で調べ、分析した藻谷氏の結論が「人口減少を止める」から「減少を止めることは不可能」への思考の転換だった。

 それは、あくまで成長を追い求めたり、人口減少の影響を過小評価したりする「マクロ経済学の一般論」からの離脱を意味するが、藻谷氏はわれわれ国民の「錯覚」も鋭く指摘する。

 その一つが「競争に勝った男性だけを登用」していればいい、という考え。これがいつの間にか「一定数を切り捨てればいい」と誤解され「半分を駄目にしてしまう」システムに陥るとして「全員育てる」システムへの転換を促した。

 作家の五木寛之氏は昨年、高度経済成長に象徴される頂点を極めた日本にとって大事なのは、再びどう山に登るか、ではなくどう山を下りるかだ、と説く「下山の思想」を著した。

 藻谷氏は、「人口」という「山」の下り方の具体策を提示しているように見える。教示に富む「下山の『思考』」である。(共同通信編集委員 柿崎明二、2012年06月12日公開)

人口構造の推移と見直し
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