柿崎明二 日本再生考

日本再生に何が必要か。この国はどうすれば活力を取り戻せるのか。月1回、有識者に語ってもらう。

柿崎明二氏

柿崎明二氏

柿崎明二(かきざき・めいじ)1961年秋田県生まれ。早大文学部卒。88年共同通信社入社。1993年から政治部で首相官邸、外務省、旧厚生省、民主党、自民党、社民党などを取材。2011年から編集委員。著書に「『次の首相』はこうして決まる」(講談社現代新書)、共著に「空白の宰相」(講談社)がある。

第10回 静岡文化芸術大准教授・磯田道史氏

磯田道史氏

▲磯田道史氏=東京都豊島区の大正大

磯田 道史氏(いそだ・みちふみ)70年岡山市生まれ。慶応大大学院文学研究科修了。著書に「武士の家計簿」など。

心のモデル

 —分業が高度に発達した現在、どうすれば。

 「若い人に世界を飛び回らせればだいぶ変わる。上から目線を悪く言うが、世界を 俯瞰 (ふかん) できる目線は重要だ。いつしか鳥の目を失って虫の目だけになった。明治維新の時も戦後も世界を見据えた人物が将来をデザインし、リーダーのブレーンとなった。18歳になったら『世界を見てきなさい』と資金援助して背中を押す国家を夢想する」

 —逆に守るべき点は。

 「他者への高い共感性だ。人間だけでなく動物、自然全般。夕立の中、急いで巣に帰るアリの気持ちを詠む俳句があるが、世界でも珍しい。落とした財布が戻る確率が一番高い国だ」

 —弱肉強食のグローバリズムの中で弱点にならないか。

 「中国、インドが、これまで欧米と日本が享受してきた大量消費社会を経験する100年に入った。中印の中間層相手の商売は必要、不可避だ。しかし、人間は物質だけでは幸せにはなれない。これは古来の王侯貴族を見た結論だ。豊かになると恋愛や宗教、旅行そして最後は音楽、芸術など文化に向かう。それは他者への共感性がなければ成り立たない。将来、必ず日本が、目指すべき心のモデルだと言われる」

思考停止

 —特性に弱点は。

 「危機を直視する力が弱い。確実に近づいている危険や困難を認識しても考えないようにして先送りする。それが現実となった時には『流れだから仕方がない』と自然災害のように捉える。検証や責任の明確化にも熱心でない。そして問題が大きければ大きいほどその傾向は強まる。大津波が確実に来るところに原発や新幹線を置いて思考停止した。事故は自然災害ではなく自分たちが選択した結果だという自覚が必要だ。また、スローガンに付和雷同する。最近では『グローバルスタンダード』。リーマン・ショック後は誰も言わない。スローガンをうのみにして右左に振れる」

 —なぜそうなるのか。

 「島国ゆえの高い均質性に由来するのでは。昆虫でも動物でも離島の生物は均質性が非常に高い。さらに、そこから逃れることも難しいので、集団から突出するのを嫌い、草むらの中に隠れているのを快適と感じるところがある」

日本の過去から何を学ぶべきか歴史家の磯田道史氏に語ってもらった。

 —今、参考になる歴史はあるか。

 「かつて再生が必要になったのは戦後のどん底期。その時の司令塔は政治家だけではない。例えば、吉田茂首相から頼まれ初代の日本開発銀行総裁を務めた小林中さん。自分の職務を遂行するだけでなく、行員の仕事ぶりをつぶさに観察して、これはと思う人物を首相の秘書役に推薦したりした。国家に役立つ人材を血眼になって探す人が民間にもいた」

 「今の社長の関心は自分の会社の来期、再来期の収益ではないか。官僚にしても省、局、課のこと。ポスト配分で損しないよう行動し目先の仕事をこなす。日本中、自分と組織のことしか頭にない人間か、マイホームパパばかりだ。国家、人類のために、余計なことをする人が少なくなった」

 —昔はなぜいたのか。

 「戦後の前の転換点は明治の近代化。この時は地方の名望家が鍵。小林さんの育った家は銀行も営む地方の有力者だったが、自分たちで治水工事をし、鉄道を敷き、産業を興した。親世代がなんでもやって地域を近代化させるのを見た。それを日本全土でやった」

 —全体性があった。

 「そう。明治維新から昭和までは政治家、官僚、軍人、名望家を国家全体の利益で行動させる魔法の装置として天皇制があった。『おのおの事情があると思うが、陛下とお国のため我慢してやってくれ』と説得できた」

「反実仮想」思考養え 迫る危機、直視を  誇るべき共感性

「困っている人、国があったら助けるという姿勢でいれば徳の高い国だと尊敬を集める」と語る磯田道史氏=東京・東新橋の共同通信社

▲「困っている人、国があったら助けるという姿勢でいれば徳の高い国だと尊敬を集める」と語る磯田道史氏=東京・東新橋の共同通信社

 —他者への共感性も均質性から来るのでは。

 「そうだ。均質性が良く発現すれば高い共感性となり、悪く発現すると危機を直視しない傾向になったり、付和雷同性となる」

 —均質性はなかなか変えられない。

 「若いうちに世界を見ることに加え、事実と違った仮定を置いて、歴史を検証する反実仮想的な思考を養うことだ。ケーススタディーや実践的な演習をやらせる。日々、想定外を想定させて対応策を考えさせる」

 —具体的な懸念は。

 「GDP(国内総生産)でお隣の国に抜かれ、第2の経済大国でなくなり、自信を失い気持ちが不安定になることだ。生まれつきのアイデンティティーにこだわって、他人や他国を攻撃する、不寛容の兆しがある。しかし、そんな薄弱な日本人ではないと思う。他者に共感できることに誇りを持って、困っている人、国があったら助けるという姿勢でいれば、徳の高い国だと尊敬を集めるだろう。そのほうが安全保障上もいい。最強のソフトパワーだ」

 均質性のマイナス克服を 認識すべき自らの特性

 天文学的な国の借金、急激な少子高齢化と人口減少、覇権主義的傾向を強める中国の台頭…。日本は今、かつてない難題に直面している。しかし、国家的な危機に日本が陥ったのは今回が初めてではない。

 歴史家である磯田氏は、敗戦からの復興と明治期の近代化にヒントを求める。自分、家族、会社という「部分」だけでなく地域、国家、人類という「全体」を見据える人材が豊富にいたことで、いずれも世界から「奇跡」と称賛される戦後復興や近代化を成し遂げたと磯田氏は指摘する。

 さらに全体性を持つ人材を育む環境として地域の発展に尽力する地方の名望家と、政治的な権威も持っていたかつての天皇制を挙げる。

 現在、そのいずれも存在し得ない。さらに危機を直視せず、付和雷同する島国ゆえの均質性のマイナス面、他人、他国への不寛容も少なからず発現しているように見える。

 しかし、均質性のプラス面である他者への共感性を高めつつ、全体と危機を見据える努力を積み重ねれば新たな「奇跡」も夢ではないはずだ。まずは、自らが持つ特性のプラスとマイナスを明確に認識することから始めたい。=2013年12月20日

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