柿崎明二 日本再生考

日本再生に何が必要か。この国はどうすれば活力を取り戻せるのか。月1回、有識者に語ってもらう。

柿崎明二氏

柿崎明二氏

柿崎明二(かきざき・めいじ)1961年秋田県生まれ。早大文学部卒。88年共同通信社入社。1993年から政治部で首相官邸、外務省、旧厚生省、民主党、自民党、社民党などを取材。2011年から編集委員。著書に「『次の首相』はこうして決まる」(講談社現代新書)、共著に「空白の宰相」(講談社)がある。

第7回 夕張市長・鈴木直道氏

鈴木岩弓氏=仙台市青葉区の東北大学

▲鈴木直道氏=北海道・夕張市役所

鈴木 直道氏(すずき・なおみち)81年埼玉県生まれ。法政大卒。08年、東京都職員から破綻した夕張市に派遣。11年、市長選に立候補、当選。

—しかし、再建は容易ではない。

「破綻した夕張は、財政再生計画に乗せてない施策を行うには、北海道と協議して最終的には国の同意が必要だ。大雨で川の堤防が壊れても、道、国に相談して、総務相の同意を得なければ修理できない。鉛筆1本買うにも総務相の同意がいると言われる。しかし、後ろ向きにとらえるべきではない」

素っ裸

 —というと。

 「確かに機敏に決断できないし、とんちんかんな結論が出る伝言ゲームになりかねない。そこで、総務相に働きかけて、市、道、国の三者が現場で協議して、計画に反映させる三者協議の場を作った。夕張は、素っ裸になった中で何が必要で、何が必要でないか、三者が考えられる唯一の自治体だ。将来、夕張以外、あるいは日本全体が、こういう状態になった時のために、どんな議論をして結論を出したのか残せる」

「もう一つ、行政サービスの最小限度がどこにあるかを議論するきっかけになる。地方に任せるという大義名分でとんでもない格差が生まれた。ひどいところには住まなきゃいいという政治家もいるが、今の憲法、法律では、一人でも住民がいればサービスを守らないといけない。市民は道民であり、国民。三者で議論して都市以外の地域が持続可能な形やルールを見つけ出していきたい」

 —市民の意識変化は。

「行政サービスは空気のようなもので、なくなって初めて、その存在を痛感する。例えば地区の集会施設。かつては維持、管理、すべて市の予算でやっていた。閉鎖するところもあるが、一方で、自分たちで守ろうと、屋根のペンキ塗りをはじめ維持、管理を市とともにやるところが出てきた。市の方もここからはできません、手伝っていただけませんか、というようなことが可能になった。結果的にだが、新しい行政の形が、浮かび上がってきている」

—破綻した市に、30歳代のそれも出身者以外の首長だが。

「私が東京都に入ったのが1999年。入庁していきなり給与がカットされた。縮小社会しか知らない団塊ジュニアの最終世代。われわれの後ろの世代は層が薄い。団塊世代が日本をけん引してきたので、あまり自覚がないが、いろんな課題に取り組まなければいけない世代なのかなと思う」

市の再建に取り組む北海道夕張市の鈴木直道市長に繁栄していた自治体の破綻から何を学ぶべきか聞いた。

—破綻は驚きだったが、日本の縮図では。

 「人口が1960年代の12万人弱から約半世紀で10分の1以下になった。高齢化率は約45%で、全国の市で最高だ。15歳未満の年少者は約6%。しかし、日本もいずれ高齢化率が40%に近づく」

—財政問題もある。

 「322億円という巨額の借金を返していかないといけない。日本全体でも国と地方を合わせて1千兆円規模の借金があり、財政再建が求められている。夕張は人口減少、少子高齢化、財政難といった課題に好むと好まざるとにかかわらず国に先駆け、直面、対応せざるをえない状況にある」

国に先駆けて難題に直面 サービスの最小限度議論  対話の中で矛盾解消を 

ネットをうまく使いこなせる人たち、高適応群は、必ずしも本来の適応群ではない」と語る高田明典氏=横浜市泉区のフェリス女学院大学

▲「結果的にだが、新しい行政の形が浮かび上がってきている」と語る鈴木直道氏=北海道・夕張市役所

賛否半々

—団塊世代は、右肩上がりの中のパイの奪い合いだったが。

「私たちの世代からは、単なる再配分でさえない。『さっき差し上げた500円返してください。こっちにもっと大変な人がいるんです』と言わないといけない。最後は、鈴木直道という人間がやることだから、何か理由があるんだろう、と理解していただくことではないか」

—どう理解してもらう。

 「人口1万人 程度 だからこそできる対話のあり方があると思う。私は、5人以上から声かけられたらどこにでもいくということを365日やっている。対話の中で、理解をしてもらい、矛盾を解消していくしかない」

—民主主義は、財政難に弱いと言われるが。

「選挙はある意味、人気商売。賛否半々の問題こそ首長が決断しなければならない。Aを選択するとBの方の人たちからは『なんだこの野郎』と言われる。問題は次から次だから、これを続けていくと際限なく人気はなくなる」

—それこそいつか「破綻」するのでは。

「就任直後、水道料金を上げますから決裁を、と課長が言ってきた。すでに東京の倍ぐらい。住民に対する説明で㈰予定通り㈪値上げ幅を大きくした先送り—の2案を説明するか否かという議論になった。先送り案は説明すべきでないという声を押し切って、2案説明させた。結局は予定通りが80%。今まで行政任せでやってきたから破綻した、と反省している人もいる。そういう人たちとともに再建して、『あの夕張もやったんだ』と日本に希望を与えられるようになったらうれしい」

日本の縮図かつ未来図 
 夕張の取り組みに学べ

 かつては炭鉱の町として栄えた夕張市の破綻は「炭鉱に頼りすぎていたがゆえの特殊ケース」と受け止められがちだ。

 しかし、鈴木市長が指摘するように市が直面する人口減、少子高齢化、財政難という「課題3点セット」は、日本全体の課題でもある。さらに、その課題の規模、レベルはともに「最先端」をいく。日本の縮図であるとともに未来図でもある市の取り組みから学ぶべき点は多い。

 課題3点セットの中でも持続可能性は維持しなければならない。行政サービス削減、住民負担増はいや応なく迫られるが、将来を見据えた一つの答えが、既存の集合住宅を利用して市街地を再編、集約する「コンパクトシティー化」だ。

集合住宅の間引き、一部除却による「減築」という手法で再生したドイツ東部のテューリンゲン州ライネフェルデを参考にしている。住民同意を得るのが難しい上、決して「明るい未来図」ではないため、選挙で選ばれる市長が打ち出すにはリスクも伴う施策だ。

 鈴木市長は「縮小社会しか知らない団塊ジュニアの最終世代」だからこそ、取り組めると自己分析するが、再建に道筋を付けることができれば、日本再生の普遍的なモデルとなり得るだろう。(共同通信編集委員 柿崎明二)=2013年10月02日

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