柿崎明二 日本再生考

日本再生に何が必要か。この国はどうすれば活力を取り戻せるのか。月1回、有識者に語ってもらう。

柿崎明二氏

柿崎明二氏

柿崎明二(かきざき・めいじ)1961年秋田県生まれ。早大文学部卒。88年共同通信社入社。1993年から政治部で首相官邸、外務省、旧厚生省、民主党、自民党、社民党などを取材。2011年から編集委員。著書に「『次の首相』はこうして決まる」(講談社現代新書)、共著に「空白の宰相」(講談社)がある。

第16回上智大学教授・鬼頭宏氏

鬼頭宏氏=東京都千代田区の上智大学

▲鬼頭宏氏=東京都千代田区の上智大学

鬼頭 宏氏(きとう・ひろし)47年静岡県生まれ。慶応大学経済学部卒。著書に「人口から読む日本の歴史」など。

政府方針

—今回の要因は。

 「まず、指摘しておくべきことがある。言い過ぎかもしれないが、今回の減少は、かつての政府方針の結果と言える。1974年の『人口白書』は、出生率を下げれば2010年までは増えるが、その後は減少に転じるとの予測の下、増減のない静止人口の実現を目標とした。当時は途上国の人口爆発による資源不足と環境問題が懸念されていたからだ」

—皮肉にも目標は達成された。

 「そうだ。ただ、人口が減少に転じた後、どうするか国も国民も考えてこなかった。1980年代も高齢化に焦点があたり、90年に、89年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)が1・57と最低を記録したことが判明、人口減少が意識されたが、バブル崩壊で景気対策に忙殺され、対応が後手に回った」

—社会的な要因は。

 「一つ目は女性の晩婚化。かつては25歳までが適齢期だと思われていた。大学進学率が高まり、その間は結婚しなくなった。さらに就職後も仕事を優先するようになり、『寿退社』しなくなった。一方、働きながらの出産、育児に対する公的なサポートが弱かった。結果、女性の生涯未婚率が10%以上になっている。いずれ20%近くなるとの見方もある。晩婚化どころか非婚化だ。育児休業制度はあるが、代わりの人材がいない中小企業は取得が難しい」

日本の人口が減り続ける現状にどう向き合うべきか歴史人口学者の鬼頭宏氏に聞いた。

—現在の減少は歴史的にどう位置づけられるか。

 「人間はどうしても自分が生きている時代から過去や未来をイメージする。日本の人口は増え続けてきた印象があるが、実は、成長と減退を繰り返して来た。縄文中期には26万人いたが、晩期に8万人と約3分の1になった。その後、弥生、奈良、平安と増加するが、平安中期の700万人をピークに再び減少期に入る。そして約300年間の停滞期を経て、室町時代に増加に転じる。さらに江戸時代には一段と加速して増加し、18世紀初めに3200万人に。しかし、末期には3千万人を割る。今回は4回目の減少だ」

—過去の減少要因は。

 「縄文期は寒冷化による食料減、平安期は荘園制の拡大で、土地開発や農業生産の誘因が減ったためと見られている。江戸期は、 飢饉 (ききん) と農民の出産抑制。それぞれ、稲作技術の到来による食糧増産、貨幣流通による経済発展、開国による近代化が、増加に転じさせた。人口は文明と密接な関係にある」

—国立社会保障・人口問題研究所によると2060年に約8670万人まで落ち込むと。

 「2100年には4千万人台にまで落ち込むという他の推計もある。ピーク時の3分の1になる計算で、その通りなら縄文晩期に匹敵する大規模減少になる」

出生率に数値目標を 縄文期並みの減少 「静止人口」目指せ

「日本の持続可能性も考えないといけない」と語る鬼頭宏氏=東京都千代田区の上智大学

▲「日本の持続可能性も考えないといけない」と語る鬼頭宏氏=東京都千代田区の上智大学

及び腰

—少子化対策が奏功したという話を聞かない。

 「政府も人口減少をストップさせたいと思っている。しかし、『子どもは2人ぐらい欲しい』という国民の希望を満たす、という及び腰の姿勢だ。41年に7200万人の人口を20年後に1億人にすることを目指す『人口政策確立要綱』が策定され、軍国主義の象徴となったことへの反省があるのだろう。個人の問題に国家が踏み込むべきではないという自制も効いている」

—そこを踏み込めと。

 「目標をはっきりさせないから対策も効果的なものにならない。静止人口には出生率2・07が必要だ。例えば、この時期までに2以上にするというような目標を決めれば、とるべき政策が明確化でき、インフラ整備も効率的になる。経済をはじめさまざまな予測も可能になり、国民の安心感にもつながるはずだ。地球の持続可能性と同様、日本の持続可能性を考えないといけない。静岡県は総合計画で掲げている」

—具体的には。

 「2を割った75年から、底を打った05年まで30年。たとえば、今度も30年間かけて35年までに2に回復させる。また、 05年から11年にかけて 上昇している出生率をそのまま延長すると40年ごろ2に戻る計算だ。そうすれば2100年ごろから8700万人前後で人口は静止する」

—生涯未婚率20%を前提とするのか。

 「結婚する、しないという個人のライフコースに踏み込んでしまうことは慎むべきだ。結婚した女性の子どもの生み方は変わっていない。生涯未婚というライフコースも認めた上で、80%の結婚した女性に平均2・5人産んでもらうよう誘因し、全体で目標を達成するしかない」

一人一人が考える時 政権首脳も言及

 出生率の数値目標をめぐっては菅義偉官房長官が3月末の記者会見で、「2・0を目標に挑戦することも一つの考え方」と言及している。さらに自民党の野田聖子総務会長は「年間何万人の子供が生まれるようにするという、より分かりやすい目標を」と踏み込んだ。

 これまで「出生率の数値目標」を掲げてこなかったのは、鬼頭氏がいうように「個人の問題に国家が踏み込むべきではない」という自制があったからだ。

 人類が、近代国家をつくり上げたのはここ数百年にすぎず、国家よりも個々人が先にあったのは紛れもない事実だ。

 その国家が個々人の生活のあり方を決めるのは本末転倒で、何より一人一人の自由を侵害することになりかねない。

 鬼頭氏が、合計特殊出生率というやや抽象的な数字を用いる一方、生涯未婚率については踏み込まないのは、この個人と国家の関係をゆがめないためのぎりぎりの工夫だろう。

 これまで通り、数値目標は設けないのか、出生率の数値目標を設定するのか、より踏み込んで年間何万人という直接的な目標を掲げるのか—。

 まず、国民一人一人が考えるべき時代を迎えている。(共同通信編集委員 柿崎明二)=2013年04月18日

出生率の推移と少子化対策
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