柿崎明二 政治劣化考

進まない政策、動かない国会・・・。政治の劣化要因とその克服策を月一回、各地の有識者に語ってもらう。

柿崎明二氏

柿崎明二氏

柿崎明二(かきざき・めいじ)1961年秋田県生まれ。早大文学部卒。88年共同通信社入社。1993年から政治部で首相官邸、外務省、旧厚生省、民主党、自民党、社民党などを取材。2011年から編集委員。著書に「『次の首相』はこうして決まる」(講談社現代新書)、共著に「空白の宰相」(講談社)がある。

第14回ノンフィクション作家・中村安希氏

中村安希氏=埼玉県上尾市

▲中村安希氏=埼玉県上尾市

 中村 安希氏(なかむら・あき)79年京都府生まれ。カリフォルニア大アーバイン校卒。著書「インパラの朝」(集英社)で開高健ノンフィクション賞受賞。

ミゼラブル

—今はまだ、表面化していない。

 「精神疾患を抱えている方とか引きこもりの方も相当いる。なぜ表面化しないのかというと恥と考えることを表に出さない 隠蔽 (いんぺい) 型社会だから。私も派遣労働のころ、しんどかったが、言えなかった。ミゼラブル(悲惨)な状況で、『私はミゼラブルだ』と言ってしまうと耐えられなくなるので強がる。一方、国も借金によって既得権益層に分配することで、体面を保っている。しかし、いずれ借金もできなくなり、歳出を半分に切らなければならなくなる。パニックになるのでは」

—確かにそういう認識は希薄かもしれない。

 「末端の方々の犠牲と借金による既得権益層への分配で隠してきた矛盾が表面化した時、治安の悪化や暴動のような社会不安につながっていくという危機感がない。そういう国を私は見てきた。世襲政治家には認識できないし、政治家になるために政治家になったような人にも認識はないだろう。インタビューした人には『たまたまなっちゃった』と言う人さえいた」

—野田政権は消費税率引き上げを決断した。

 「消費税増税は仕方ないと思う。しかし、一番の問題である年金制度に手を付けていない。年金をもらっている年配の有権者は最大の票田。加えて、ロスジェネ世代より上の退職間近の世代も『おいしい年金』は手放したくない。結局は、変わらないだろう」

 「政権も現状維持の自民党に戻った。『財政破綻するなら早くしてほしい』というのが今の私の感覚。このままズルズル、中途半端な延命措置をしていって55歳ぐらいになった時、破綻して、苦しみながら払った国民年金もパーになり、荒れ果てた社会に放り出されるなんてことになるのは勘弁してほしい」

若年層に 閉塞 (へいそく) 感が漂う現状について派遣労働の経験もあるノンフィクション作家の中村安希氏(33)に語ってもらった。

—若手の国会議員18人にインタビューした著書「Beフラット」で「暗い気持ちになった」と書いている。

 「政治家として何をやりたいか、よりも政治家として生き残ることの方に力点があった。これをやりたい、ということが明快だったのは2、3人。他の人は『頑張ればよくなる』『自分を信頼してくれ』みたいな精神論、抽象論だけだった」

 「日本の現状をきちんと認識して、社会保障や税の制度をどう設計し直していくかグランドデザインが必要だが、そもそも現状を認識できている人が少なかった」

—現状はどうだと。

 「今、私は安心できる暮らしでもないが、ひどい暮らしでもない。以前、派遣労働をしていた時代は、とても苦しかったし、周りの人を見ていても絶望的な気分になった。30歳代半ばぐらいの人が、日当5千円ぐらいで働いていた。あの人たちは今ごろどうなっているのだろうと思い出す」

 「数年前の総務省資料だが、25歳から34歳までの男性就労者のうち、年収299万円以下は35%。非正規で低所得の人が増えている。バブル後の就職氷河期に遭遇したロストジェネレーション世代が50歳代になってくると結構、恐ろしい」

厳しい現状認識欠如 借金で矛盾隠蔽  フラット社会に

「末端の方々の犠牲と借金による既得権益層への分配で矛盾を隠してきた」と話す中村安希氏=埼玉県上尾市の喫茶店

▲「末端の方々の犠牲と借金による既得権益層への分配で矛盾を隠してきた」と話す中村安希氏=埼玉県上尾市の喫茶店

成長知らず

—破綻待ちのように聞こえるが。

 「破綻待ち…ですよ。今、破綻したら大変なのは(正規社員の) あなたです(笑)。 フリーの私は変わらない。既得権益層に対する腹いせで、破綻を願っているわけではない。平らに、フラットな社会にしてほしいということ。機会の平等と失敗した時の最低限の保障、正規と非正規、老若男女間の障壁のない雇用システム、自由でやり直しのきく教育制度、身の回りのことは地域が決める地方分権が必要だ」

—経済成長で立て直すという意見もあるが。

 「政治家も有権者も『景気回復を』『経済成長を』というが、私が生まれた時には成長は終わっていたし、景気がよかった時代もない。そういう言葉自体に違和感を覚える。現状を認識して、制度設計できる政治家が半数を超え、日本が破綻せず、軟着陸するのが一番望ましい。しかし、そうはならないとも思う」

—著書で、投票したい人がいない時には「×」と書いて意思表示をしようと述べている。

 「選挙に行っても変わらないのは確か。ただし、何の意思表示もせずに迎える財政危機と、『こうあってほしい』という意思を持って迎える危機では、受ける打撃の質とその後の展開に大きな差がでると思う」

「破綻待ち」という逆説 新制度設計促す可能性も

 「破綻待ち…ですよ」という中村氏の言葉を、開き直りや投げやりと受け止めるのは間違いだ。日本社会の現状と将来に関する中村氏の主張は明確だ。

 「国家による借金や経済的な格差は深刻だ。これを放置していれば、いずれ日本社会は大きなコストを払うことになる。人口増と経済成長を前提とした従来の社会構造をいったん平らにし、フラットな社会にしなければならない」

 その主張は、かつて厳しい派遣労働で暮らし、破綻国家も自分の目で見た自身の現状認識に裏付けられている。

 一方、中村氏は、それができる政治家が半数を超えることはなく、フラット化には年金受給者、

正規労働者など「既得権益層」の痛みを伴うから、実現性は少ないとも指摘する。

 「破綻待ち」は、将来に対する危機感と、現状認識さえおぼつかない政治家に対する憤り、そしてあきらめが入り交じった逆説である。投票用紙に「×」と書き込むことを含めて意思表示を促すのはその証しだろう。

 破綻の先にフラット化があるとは限らない。一時的には格差とは呼べないほどの極端な富の偏在が生まれる可能性もある。であるからこそ「破綻待ち」という逆説が政治家に現状認識と新たな制度設計を促すかもしれない。(共同通信編集委員 柿崎明二、2013年2月15日配信)

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