柿崎明二 政治劣化考

進まない政策、動かない国会・・・。政治の劣化要因とその克服策を月一回、各地の有識者に語ってもらう。

柿崎明二氏

柿崎明二氏

柿崎明二(かきざき・めいじ)1961年秋田県生まれ。早大文学部卒。88年共同通信社入社。1993年から政治部で首相官邸、外務省、旧厚生省、民主党、自民党、社民党などを取材。2011年から編集委員。著書に「『次の首相』はこうして決まる」(講談社現代新書)、共著に「空白の宰相」(講談社)がある。

第12回 劇作家・平田オリザ氏

平田オリザ氏=大阪市内のホテル

▲平田オリザ氏=大阪市内のホテル

平田 オリザ氏(ひらた・おりざ)62年、東京都生まれ。劇作家・演出家、大阪大教授。国際基督教大在学中に劇団「青年団」結成、主宰。著書に「総理の原稿」(共著、岩波書店)など。

あいまい

—風土というと。

 「日本人は、あいまいさを好むところがある。ヨーロッパ型の『二大政党プラス中間政党』の方が合っているのではないか。しかし、日本ではまだ、連立政権のルールも確立していない。鳩山政権は、連立相手に振り回されたところもある。こういったことが、次の次の総選挙ぐらいで落ち着いていくのかなと」

 「さらに、それが機能するまでの期間を入れると20年はかかる。その20年に日本と日本人が耐えられるかだ。耐えられず、金融バブルや独裁、戦争など性急な変化を求めると国を滅ぼすことになる。右も左もここが我慢のしどころだと感じる」

—自民党をどう見る。

 「自民党がもともと内包している極右的な体質を今後、どうしていくのかが問題だ。他にも教育政策で言えば、安倍晋三総裁は、子供は家庭で育てるもので社会や国はそれをサポートする存在、という趣旨の主張をしている。でも、それは戦後、米国が持ち込んだ一つの幻想だ。安倍さんが尊敬しているだろう吉田松陰は、親戚に預けられて教育を受けた。そういうきちんとした伝統を受け継ぐのが保守。急激な変化を求めず、湿潤で美しいこの国を守っていくという穏健な保守政党になってもらいたい」

—極右の定義だが。

 「ヨーロッパでは移民排斥が特徴だ。欧州連合(EU)離脱などの民族主義的主張が強い。しかし、極右には、主張はさせるけど政権には参加させないという知恵が国民にある。保守も極右とは組まない暗黙のルールがあり、健全さが保たれている」

暗中模索状態の政治を、鳩山政権で内閣官房参与も務めた劇作家の平田オリザ氏が考察した。

―自民党が政権に復帰することになった。

 「この3年余りの野党時代に、どれだけ勉強したかが問われる。個別の政策だけでなく、その背景にある哲学や理念をどれだけ鍛えてきたのか。二大政党制では野党時代の過ごし方が重要な意味を持つと思う」

―民主党は与党としては不合格とされた。

 「失敗は大きく三つに分けて分析すべきだ。一つ目は指導層の個人的な資質の問題。次に組織の問題。綱領がないとか、政策決定システムが定まらないとか。最後は日本が政権交代にまだ慣れていないという問題もあった。

官邸に入って感じたのは、この国はまだ政権交代に耐えうるシステム、風土になっていない国だ、という点だった。この分析を怠ると自民党もまた同じ轍(てつ)を踏む」

 「資質問題で言えば、指導者が孤立、暴走しないシステムをつくらないといけない。これからは例えば、党首選に半年なり一定の時間をかけ、その間の論争や言動によって 淘汰 (とうた) を行い、絞り込んでいく必要がある。今のように直前になって突然、候補者がワッと出て来て、ドタバタで決めていてはそれができない」

政党は明確に自己規定を 問われる自民の3年間  民主の失敗、分析必要

「二大政党制では野党時代の過ごし方が重要な意味を持つ」と語る平田オリザ氏=大阪市内のホテル

▲「二大政党制では野党時代の過ごし方が重要な意味を持つ」と語る平田オリザ氏=大阪市内のホテル

暴力性

 「もう一点、極右と保守を分ける上で重要なのは、暴力を辞さないかどうか。それは言語も含む。政治家たるもの相手をどう喝し萎縮させるような行動をしてはならない。『私はあなたの意見には反対だが、あなたが自由に意見を言う権利は命懸けで守る』というのが民主主義のルールだ」

—言葉の問題で言えば、日本維新の会の石原慎太郎代表、橋下徹代表代行が思い浮かぶが。

 「ジャーナリズムに対して、あのような態度を続けていれば、ヨーロッパなら極右に分類されても仕方がないだろう。一般企業ならパワハラと捉えられる行為が、公然とまかり通っている政界の古い体質も変えなければならない」

—言語の暴力性とトップダウン志向や選挙決着主義は関連していないか。

 「その通りだ。民主主義はもともと決めにくいシステムだ。

それは権力を暴走させないための安全装置でもある。憲法の改正条項の緩和問題も同じ。一時の高揚感で安全装置をはずすことを声高に叫ぶのは非常に危険だと感じる」

—極右のみならず、各党の立ち位置明確化は民意の反映に資するか。

 「そうだ。その芽は、今回出てきたように感じる。民主党が『中道』を主張した。その右側に自民党、日本維新の会、左側に日本未来の党、社民党、公明党は自民党と民主党の間か、あるいは民主党よりも左かもしれない」

 「自己規定した上で、選挙をして、その後、数合わせする。立ち位置を明確にして思う存分、戦い、結果が出てから、どこと連立を組むかを決めた方がいいはずだ」

冷戦後、対立軸なく 立ち位置基に選択を

 政党は立ち位置を明確にするべきだという平田氏の主張は傾聴に値する。政策の背景にある哲学、理念に基づく立ち位置は有権者にとって有効な判断材料となるし、何より、徹底していけば民主党に見られた政党内の不毛な争いを解消することにもつながるからだ。

 米国を盟主とする自由主義陣営とソ連を頂点とする社会主義陣営による冷戦の終結で、「保守対革新」という対立軸は意味をなさなくなった。冷戦下では、外交・防衛から経済政策、社会保障まで自民、社会両党の政策は大きく違っていた。このため、有権者の判断基準もはっきりしていた。

 しかし、ソ連崩壊で、

イデオロギー対立がなくなると各政党の政策は、自由主義経済の枠内での選択になり、違いは相対的なものになった。「小さな政府対大きな政府」など主に経済財政運営や社会保障のあり方をめぐる対立軸が浮上した。だが、民主、自民両党は党内に両派を抱え、政党を明確に区分けすることは難しく、所属議員にさえ迷い、混乱が見られた。

 右肩下がりの経済が続くなど国民の多くが「今日と同じ明日」さえ描けなくなっている。この国を運営するにあたっての立ち位置を基に選択が行われれば「民意の分布」が明らかになり、「明日」が見えてくるきっかけになるかもしれない。

(表)政治イデオロギー
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