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東京大・数物連携宇宙研究機構で、研究と予算について語る村山斉機構長=千葉県柏市

東京大・数物連携宇宙研究機構で、研究と予算について語る村山斉機構長=千葉県柏市

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第二回 先端とすそ野

 午後3時。チャイムがお茶の時間を告げ、吹き抜けの大部屋に研究者が集まってきた。出身国はさまざま。専門も天文学、数学、物理学と幅広い。中央の柱に記されたガリレオの言葉が、分野を超えた議論のざわめきを見下ろす。「宇宙は数学の言葉で書かれている」
 千葉県柏市の東京大・数物連携宇宙研究機構。文部科学省が2007年度に始めた世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の一つだ。5拠点に年平均約14億円の補助が10年続く。
 「いろいろな人がいて楽しく、刺激が大きい」と特任助教の前田啓一(まえだ・けいいち)さん(33)。星の爆発の研究が専門だが、宇宙の成り立ちを調べるのに役立つ成果を最近発表し、注目された。「授業の義務はなく、海外にどんどん行くよう言われます」

不安広がる

 村山斉(むらやま・ひとし)機構長(46)は米国の大学で研究する中で日本の研究者の顔が見えないことが気になっていた。「日本から良い論文が出ても『あの日本の論文』と呼ばれる。個人が見えないことが残念で、それを変えたかった」
 分野を融合し宇宙の根本的な謎を解くという目標を掲げ、約70人を採用。6割は外国人だ。安定した職をなげうって来

国立大への運営費交付金

ガリレオの言葉が記された柱(右奥)が見下ろす部屋で議論を交わす研究者=千葉県柏市の東京大・数物連携宇宙研究機構

ガリレオの言葉が記された柱(右奥)が見下ろす部屋で議論を交わす研究者=千葉県柏市の東京大・数物連携宇宙研究機構

世界トップ拠点に壁 政策迷走、土台も危機

た若手もいる。研究は順調だが事業仕分け以来、海外から心配されるようになった。WPIは予算削減とされ、3・6%減に。「予算に不安があるという印象が広まった」
 ハワイのすばる望遠鏡を使い、宇宙の大部分を占める「暗黒物質」「暗黒エ

ネルギー」の正体に迫る村山さんらの研究計画も95億円の予算が27億円に削られた。
 迷走する政策が壁となり、世界の頂点を目指す研究者の前に立ちはだかる。一方、学問の土台である大学も危機的状況だ。

校費も減る

 国立大の主な財源である政府からの運営費交付金は削減が続く。国立大が法人化されてから毎年1%減らされ、6年間で計830億円減った。
 交付金が約8億円減った熊本大は約千人の教職員を1割減らした。「交付金は本年度1・8%減。来年はもっと減るかも知れない」と谷口功(たにぐち・いさお)学長(62)。
 大学が研究者に配る「校費」(研究費)も減った。額は大学や役職で違うが、1990年代半ばに100万円程度とすれば今は40万円程度というのが平均的だ。

 研究者が獲得を競う科学研究費補助金(科研費)など「競争的資金」と違い、ものになるかどうか分からない段階の独創的研究を支えてきた。日本の科学のノーベル賞の多くは校費の産物だ。
 「校費はお米のような存在」と重要性を説くのは理論物理学者の町田一成(まちだ・かずしげ)岡山大教授(65)。「科研費のように使い道が限定されず、使いやすい。そこが削られ、費用がかさむ実験系では、競争的資金獲得が死活問題になっている」

引き抜きも

 競争的資金は増えたが東大など旧帝大に集中。多くの大学に分散する米国とは対照的だ。研究者も地方大学から旧帝大に引き抜かれる動きがある。谷口さんは「日本のためには研究者が分散していた方がいい」と断言する。
 格差が拡大して研究のすそ野はやせ、日本全体の研究力が地盤沈下しつつある。実際、日本の科学論文の数は

減り続けている。旧帝大以外の論文が減ったためだ。
 「研究費獲得に忙しいのと、博士になっても大学や企業に就職が難しく先が見えない状況から、博士を目指す学生が減ったのが原因です」。日本化学会会長の岩沢康裕(いわさわ・やすひろ)電通大教授(64)は嘆く。
 科学技術政策が専門の小林信一(こ

ばやし・しんいち)筑波大教授(54)は「米国には研究の盛んな大学が約600ある。地方大学を優先する研究費もあり、研究力の質に格差はない。日本も政府が地方大学をもっと支援すべきだ」と求めた。

(辻村達哉共同通信編集委員、2010年7月23日公開、肩書は当時)