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2011/11/02

隣国の話を聞いたら驚いた

隣国の話を聞いたら驚いた

 -May you stay forever young.


取材や調査などで、ちょくちょく韓国に行きます。そのたびごとに「こちらの就職状況は、日本とは比べものにならないぐらい大変だよ」という話が耳に入ります。ではどれぐらい辛いのでしょうか。ソウルの有名大学で経営学を教えている知人に聞いてみました。
(写真:サムスングループの中核、サムスン電子本社ビル=ソウル市内)

―ちょっと調べてみたんですけど、韓国では2011年春卒業の大学、大学院生の正社員就職率はなんと48.3%。2人に1人以上が正社員になれないわけですね。かなり驚きました。

韓国版就活の厳しさは、ここ数年の話ではなくて、経済そのものの構造的な問題に起因しているんですね。話はアジア通貨危機が起きた1997年にさかのぼります。韓国では、この時、金融機関の不良債権問題が一気に表面化して、国家破産の一歩手前まで追い込まれました。国際通貨基金(IMF)からの緊急融資で、何とかデフォルト、つまり対外債務の不履行は切り抜けることができたのですが、IMFの監督下で痛みを伴う改革、言い換えると外科手術的な経済、社会改革を強いられることになりました。こちらでは朝鮮戦争のことを「韓国戦争」と呼ぶのですが、この「IMF危機」は「韓国戦争以来の国難」と言われました。驚異的な経済発展は「漢江の奇跡」として世界に輝いていたんですけど、外国の機関が入ってきて、ああしろこうしろと命令するわけですから、韓国民のプライドはこなごなになってしまいましたね。


―確かに当時のソウルは失業者であふれていて、レストランや商店もシャッターを下ろして、とにかく暗かったのを覚えています。あのエネルギーに満ち溢れていたソウルはどこに行ったんだという感じでした。私の友人の新聞記者も「給料がいきなり半分以下になった」と肩を落としていました。

この危機以降、韓国の企業は景気循環に対応できるように正社員の率を減らし、契約社員を多く雇用する形に変わりました。それが現在まで続いているわけです。若者の多くが不安定な雇用に悩んでいて、20代の平均賃金は驚くほど低額です。彼らはその月額収入から「88万ウォン世代」と呼ばれています。日本円では6万円ちょっとですかね。これでは食べていくのがやっとです。

―正社員ではなくてインターンになる人が多いという話を聞きましたが。

韓国では大学新卒で正社員になるのは「針の穴を通るぐらい難しい」と言われています。ただ「新卒一括採用」という言葉自体には、韓国ではなじみがあまりないんですよ。10、11月には「就職博覧会」という、企業と学生とのマッチングイベントがありますし、大手は新卒生をまとめて採用しますけど、日本ほどには「新卒、新卒」という感じはないですね。最近では、多くの企業がインターン制度を採用していて、半年程度の試用期間を経てからようやく社員になれるというケースも多くなっています。


―やはり有名大学出身者が有利なんでしょうか。

韓国は日本では考えられないほどの「究極の学歴社会」なんです。弊害が大きくて批判も強いのですが、さっぱり解消されない。ソウル大、高麗大、延世大、これらはそれぞれの頭文字を取って「SKY」と呼ばれますけど、このクラスの名門大学を出ていないとサムスン、現代などの大企業にはなかなか入れません。ですので、毎年11月の「大学修学能力試験」、これはちょうど日本のセンター試験のようなものですが、その実施日には韓国全土が異常な緊張感に包まれます。交通渋滞で遅刻する学生が出ないように役所、民間企業の多くが始業時間を繰り下げますし、英語のヒアリング試験の時間帯には、軍用機も含めて航空機の発着制限も実施されます。


―何だかものすごいですね。

難関を突破してからがまた大変なんですよ。名門大学に入った後も、のんびりサークル活動を楽しむような人は少なくて、就職に備えた学内の学習会に入ってひたすら勉強します。大企業、公務員、マスコミなど人気のある志望先ごとにこの手の学習会があります。入るには筆記試験や面接試験があるというから驚きです。給料は安いけれども、安定した就職先である公務員は大人気で千倍近い競争率になることもありますね。公務員試験予備校が大繁盛していて、ソウル市内には「予備校村」と言われるような地域もあります。ここには地方から若い人が大勢やってきて、2、3畳の狭い下宿にこもって睡眠時間2時間で猛勉強を続けています。


―日本でも学生の大手、安定志向が強いと言われていますが。

でも、日本の場合は韓国に比べると中小企業のすそ野がはるかに広くて、大企業より労働条件がいいところもたくさんあるじゃないですか。韓国では、大企業と中小企業の格差が本当に大きいので、大学生はみんなサムスン、現代、LGといった大手を目指すんですね。


―就職浪人が結構出そうですね。

こんな状態ですから、就職浪人もざらです。むしろ4年で卒業する学生が少ないほどです。意図的に単位を残して5年生、6年生になる学生が少なくありません。男子は兵役もありますから、気が付いたら学生のまま30歳直前という笑えない話がいくらでもあります。最近では、就職浪人生には学費負担を減免する大学も出ています。


―採用にあたって学歴以外にどんな能力が重視されますか。

やっぱり英語力ですね。大企業に就職しようとしたら、TOEIC800点以上、TOEIC Speakingはレベル6以上を求められます。韓国で独自に開発されたTEPSという英語テストがあるんですけれども、政府系の機関に就職する場合はこれを受けなければなりません。会社に入ってからもTOEICの成績表は随時、提出を求められます。スコアが昇進に影響してきますから気が抜けないんですね。


―先生の話をうかがっていると「日本に生まれてよかったなあ」と感じる学生が多そうですね。

いや、これは日本人学生にとって他人ごとじゃないんですよ。わたしの教え子なんですけど、一年ちょっとの勉強で日本語を完璧に仕上げて、東京の中堅企業に就職した男子学生がいます。入社3年目でアジア全体を視野に入れた大きなプロジェクトを手掛けているようです。「いずれは社長になる」と公言していますね(笑)。円高の影響や韓国の自由貿易政策の進展でこちらに進出する日本企業が増えていますけど、そこに入る教え子も増えています。問答無用の競争社会でもまれてきた彼、彼女らに日本人学生が蹴散らされる日が来る、いやもしかしたらもう来ているのかもしれませんよ。