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日本酒 津々浦々

10年03月09日 15:38


【49】乾風 吟醸(あなぜ) 【京都】

京都府京都市伏見区 北川本家
京都府京都市伏見区 北川本家

 当連載の前回(【48】赤野 潦 純米吟醸)で、一升瓶のラベルの読めない漢字について書いたが、その続き。「乾風 吟醸」。これも読めない。居酒屋の店主は、「客が100人来ても、だれ一人として読めません」。そりゃ、そうだ。乾風を「あなぜ」だなんて、だれも読めるはずがない。
 飲んだことがない酒に必要以上に強い関心を示すわたくしは、なじみの居酒屋に「乾風 吟醸」を見つけ、反射的に反応した。「これ、飲もう。これ、飲もう」。頭が小児じみているので、コーフンすると、つい同じ言葉を繰り返してしまう。そして、一呼吸置いてから「ところで、これ、なんて読むの?」。店主は「あなぜ、と読むんだそうです」。そこで、再び質問。「どういう意味なの」。店主は「分かりません」。
 意味はともかく、まず、冷やで飲んでみた。すっきりした、すっとキレるやや辛口の酒。酸を感じる。繊細でやわらかいが、厚みがあまりないことから、濃醇な酒を好む人には物足りないかもしれない。しかし、この酒ばっかり飲んでいると、舌が慣れて、なぜか知らないうちに何杯も飲んでいる、という飲み飽きしない酒といえそうだ。吟醸酒ということだが、吟醸香は、あまり感じられない。
 次に、ぬる燗で飲んでみた。冷やで飲んだときと、表情が全然違っていた。辛さが前面に出てきたのだ。そして酸も出てくる。おもわず「おいしいっ!」。一緒に飲んだ親友も「かれ~な~。こりゃ、酒飲みのための酒だな」と驚く。居酒屋店主は「うん、冷やよりいい。これはおいしい」とお気に入りの様子だ。全然気取らない普通の辛口酒。わたくしが「こりゃ、量を飲める酒だな」と喜ぶと、親友から「別に量を多く飲まなくてもいいのに」とたしなめられた。
 さて、「乾風」とはいったいどういう意味なんだろう。気になって後日、広辞苑を開いてみた。そこには「あなぜは、『あなじ』ともいう。冬、北西から吹く風。しばしば航行の妨げとなる」というような趣旨のことが書かれていた。例文には、後拾遺和歌集(1086年完成)からの歌が載っていた。この「あなぜ」、相当古い言葉であることが分かる。その言葉が今に生きているとは、さすが京都である。時間の観念が、田舎者のわたくしとは全然違う。
 この「乾風」の蔵のホームページを見ると、江戸時代初期、宇治川(淀川)沿いで「鮒屋」という船宿を営んでいた初代・四郎兵衛が客に出すための酒を自分でつくりはじめたのが酒造りの第一歩とされているが、当時の文献が残っていないため、酒株制度が始まった明暦3(1657)年を創業年としている、という。そして、蔵元のニックネームが「乾蔵」(いぬいぐら)のことから、「乾風」というブランド名にしたのだそうだ。
 いずれにせよ、非常に古い蔵。蔵の歴史といい、「乾風」というネーミングといい、京都を感じさせずにはいられない。



京都 | 2010/03/09 | 15:38 | コメント (0) | コメントを書くコメント一覧 |


地方新聞社元記者。唎酒師。本籍・住所・年齢不詳。性別は男。飲んだことのない酒を飲むことと、ぬる燗が趣味。燗つけ器を、なじみの居酒屋に置いて、燗酒を楽しんでいる。酒席での「とりあえずビール」は、ビールにも酒にも失礼だ、といきなり酒を飲み始める。酸味のある濃い酒を好む。毎年、500種類以上の酒を飲んでいる。







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