裁判員をよむ

連載企画

参加者の戸惑い

「やっぱり世間知らず」 裁判官、真相不明でも判決 

 ある地裁で開かれた裁判員裁判の評議。裁判員6人と裁判官3人がテーブルに座り、司会役の裁判長が一人一人順に意見を尋ねたり、裁判員同士が議論したりした。裁判官は隣り合わないように着席しているが、裁判長が裁判官に同意を求めたこともあった。

記者会見する裁判員経験者

判決後に記者会見する裁判員経験者=2009年9月17日、高松地裁

 また裁判長はずっと場を和ませることに腐心していた。裁判員だった男性はその配慮に感心する一方で「裁判官が『世間知らず』と言われる理由が分かった。刑事裁判はこれでいいのだろうか」とも感じたという。

 ▽制度期待したが…

 男性はこれまで殺人や性犯罪に対する刑の軽さや、被害者が少ないという理由から死刑が回避されたケースに納得がいかず、刑事裁判に不満を持っていた。だから市民が判断に加わる裁判員制度に期待したし、裁判員に選ばれたときはしっかり務めようと思った。

 公判で検察官が述べた事件の原因や背景は分かりやすかった。被告は罪を認め、弁護人もあまり争わず、審理は順調に進んだが、男性の疑問は次第に膨らんでいった。

 「罪を認めているからといって、検察官の主張が真相とは限らない。被告や被害者、関係者には多様な利害があり、捜査当局に必ず真実を述べるわけではないから」

 男性はこれまでの仕事を通じ、利害が対立する問題で、関係者は自分に都合の悪いことは言わないケースを数多く見てきた。そういうときは証拠を集め、事実を想像しながら、また証拠を集め、真相にたどり着くという経験を持っている。

 今回の裁判でも、仕事で培った、こうした手法で考えることが“市民感覚”だと思った。

 ▽想像制するように

 しかし、裁判長は想像することを制するように「法廷に出された証拠だけで判断してください。検察官の主張が確かかどうかを考えてほしい。分からないことがあれば、法廷で被告や証人に質問すればいい」と繰り返し説明した。

 質問は事前に打ち合わせた上でしたが、初めて座った法壇では緊張するし、うまく聞けなかったという。男性は最後まで想像を交えずに評議に臨んだが、今も納得できずにいる。

 「真相が分からなくても判決は出せた。裁判官は検察官や弁護人のストーリーからこぼれ落ちた真実を想像もせず、俎上(そじょう)に載せられたものだけで判断する。今回、それがよく分かった。この手法では『世間知らず』と言われるのも、やむを得ないのではないか」

  ◇  ◇  ◇

 各地の裁判員裁判で裁判員を務めた人はどのように考えたのか、戸惑いはないのかを探った。また裁判員の反応を見て変化する審理の様子なども報告する。


(共同通信社 2009年10月31日)


リンク

裁判員制度とは

 有権者から無作為に選ばれた裁判員6人と裁判官3人が原則審理し、殺人など重大事件の被告が有罪かどうかを判断した上、有罪の場合は刑も決める。