候補者の見方
判断悩む責任能力 証拠隠滅から「心神耗弱」
刑法などに定められた犯罪行為を実行し、それが正当化される事情もないが、事件当時、精神障害の影響で自分の行動に責任を負える状態ではなかったときは「刑事責任能力がない」として罰しない。この責任能力の判断は裁判官でも難解とされている。
2006年12月、東京都渋谷区の自宅で夫を殺害し、遺体を切断したとして殺人罪などに問われた女性被告の公判は、責任能力が争点だった。
▽「喪失は泥酔状態」
東京地裁の裁判員候補者名簿に記載されている40代のEさん(男性)と30代のFさん(女性)は「難しすぎる」と責任能力の判断に戸惑った。
まずEさんは被告の責任能力について「幻覚などがあったので普通の精神状態とは思えない」としながらも、事件後に証拠隠滅を図っていたことから、一定の責任能力があったと指摘する。
精神鑑定では、責任能力のない「心神喪失」とされたが、Eさんからみると「喪失」という言葉には、泥酔したときのように体の自由がきかない状態というイメージがあり、責任能力を一部欠いている「心神耗弱」と考えたという。
ただ自分の判断に自信が持てず「ほかの裁判員の意見に流されるか、裁判官が言うことに頼ってしまうかもしれない」と漏らした。
「夫から継続的にDVを受けていたので、殺すしかないという精神状態は分かる」とFさん。しかし、証拠隠滅を理由に「判断力がなかったとはいえない」とし、やはり心神耗弱とみる。
▽鑑定「共感できぬ」
刑はどうするか。EさんはDV被害などを酌量して「懲役5―6年とすべきだ」と主張する。
Fさんは遺体を切断した残虐さから「極刑か」と当初思ったが、殺害は突発的で計画性がないことが分かったとして「死刑や無期懲役より軽くすべきだ」という。
刑法は罪を犯した人を非難するのではなく、行為を非難するとの考え方から、心神喪失を無罪、心神耗弱は刑を減軽すると定めている。Eさんは「賛同できる」としつつ「弁護側が何でもかんでも精神障害があると主張するのは行き過ぎだ」。
一方、Fさんは鑑定結果で幻視や幻聴があったとされていることについて「普段、自分が体験しないことなので分からない。鑑定の結果にはなかなか共感を持てない」と語った。
(共同通信社 2009年11月04日)

