裁判員をよむ

連載企画

候補者の見方

状況証拠だけでは弱い 足利事件も教訓「無罪」

 11年前の7月、和歌山市で夏祭りのカレーを食べた人が次々にヒ素中毒となり、4人が亡くなった毒物カレー事件。被告の自白や目撃証言といった直接証拠はなく、動機も不明だったが、和歌山地裁、大阪高裁、最高裁はいずれも状況証拠から有罪と判断し、被告に死刑を言い渡した。

 ▽疑わしきは罰せず

 「被告がヒ素を入れるところは誰も見ていないし、ヒ素が入っていたとされる紙コップも、同種のものが被告の家にあったというだけ。(カレー鍋に混入されたヒ素と被告宅にあったヒ素の)鑑定結果も『ほぼ同一』という程度で、状況証拠は弱いと感じる」

 横浜地裁の裁判員候補者名簿に記載された30代のAさん(男性)は無罪を選択するという。「怪しいと思うけれどね」

 やはり横浜地裁から名簿に載ったという通知を受け取った60代のBさん(女性)も「納得できる物的証拠がなく無罪。目撃証言があったとしても有罪にするのは難しい。『疑わしきは罰せず』の原則に従う」と話す。

 ただ、2人とも「事件や裁判の報道を見ていたときは、被告が犯人だろうと思っていた」。しかし今回証拠を検討した際には、どちらも足利事件のことが頭の中にあり、予断を持たないように気を付けたという。

 足利事件では、DNA型の再鑑定で、無期懲役が確定した受刑者と被害者の衣服に残っていた体液の型が実は一致しないことが分かり、受刑者の再審開始が決まった。

 ▽「動機分かれば…」

 「ショックだった。自分が有罪とした何年後かに、無実と分かったらと考えると恐ろしい」とBさん。Aさんも「足利事件はDNA鑑定や自白があり、カレー事件より証拠が豊富だったが、それでも冤罪(えんざい)。無実の人を有罪にするより、有罪の人を無罪にする方がまだましだ」と打ち明ける。

 一方、カレー事件では検察側が「被告は近所の主婦から疎外され、激高した」と主張したが、裁判所は認めず、動機は解明されなかった。

 Bさんは「動機が分からなくても判断に影響はない」。その理由は「秋葉原の無差別殺傷事件の被告が『誰でもよかった』と話すなど、動機が理解できず、信じられない事件が多いから」。

 Aさんの方は「被害者に実は恨みがあったとか、そんなことがあれば、有罪に近づく要素にはなったと思う」と動機が判明していれば考慮したことを明らかにした。

  ◇  ◇  ◇

 裁判員は証拠や検察側・弁護側の主張をどうみるのか。各地裁の裁判員候補者名簿に載っている人に三つの事件の証拠などを詳しく伝え、裁判員になったつもりで考えてもらった。


(共同通信社 2009年11月04日)


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裁判員制度とは

 有権者から無作為に選ばれた裁判員6人と裁判官3人が原則審理し、殺人など重大事件の被告が有罪かどうかを判断した上、有罪の場合は刑も決める。