普及する小児の無輸血手術 実施基準なく慎重意見も
   心臓専門医ら研究会
 体重15キロ以下の患者の心臓手術では難しかった、輸血なしの手術を実施す る医療機関が増えてきた。輸血に伴う感染症の危険性を可能な限り減らすことなどが 目的だが、手術の適応基準や、緊急に輸血が必要と判断する基準などはまだない。こ うした中、専門医や臨床工学技士らがさまざまな立場で無輸血手術について議論する 「小児無輸血開心術研究会」(代表、龍野勝彦・千葉県循環器病センター長)が7月 に発足した。国内での実態を把握し、手術の安全性を高めるための実施指針策定を目 指している。
▽3キロ台の赤ちゃんにも
  心室中隔欠損症やファロー四徴症といった先天性の心臓病の手術は通常、心臓 と肺の動きを止めて行うため、血液に酸素を与えて全身に送る人工心肺で代用する。 この際、装置の中を循環させるために大量の血液が必要となる。  成人の場合は、事前に自己血をためたり、電解質輸液などで血液を薄め、かな りのケースで無輸血手術が可能になったが、小児ではこうした対応に限界があった。  ところが、1990年代以降、一部の施設や機器メーカーがポンプの改良など で小型人工心肺の開発を進め、装置内を循環する血液の量は大幅に減少。最近では体 重3キロ台の赤ちゃんでも無輸血での成功例が出ている。  「装置だけでなく、術前、術中の患者管理などの水準が向上したことも大き い」と、龍野センター長。
 無輸血手術が普及した最大の理由は、感染症や未知の因子による障害、輸血中 のリンパ球が患者の臓器を異物と認識して攻撃する「移植片対宿主病」(GVHD) など、輸血を原因とする合併症が、まれにだが起きるためだ。
 同センターの松尾浩三・主任医長らが今春、全国の施設で行った調査でも、回 答があった47施設の94%が「できれば輸血は避けたい」と回答。無輸血手術へ の期待の高さが裏付けられた。  
▽施設間で基準に差
 一方、調査では課題も浮かび上がった。
 輸血なしに人工心肺を使えば、血液が薄まって貧血状態になり、さまざまな合併症 が起きる恐れもあるため、赤血球数を一定以上に保ち、低下すれば輸血をする必要が ある。
 しかし、各施設が安全に手術を続けられると考える最低赤血球数の値は、正常 値の3分の1以下から約2分の1までと、開きが大きかった。手術後に輸血を実施す る際の明確な判断基準を定めている施設も、半数以下だった。
 無輸血手術の利点は多いが、患者の体重に応じた人工心肺の選択はどうあるべ きか、輸血をせずに手術を続行する安全基準をどうするか、などについて具体的指 針が必要―研究会ではこうした声が相次いだ。
 龍野センター長は「米国では、血液を薄める度合いの大きい心臓手術によっ て、脳の高等な機能に影響が出る恐れがあるとの学会発表もある。子供の成長を考えれ ば、10年レベルの追跡調査を行い、長期的影響の有無を確認することなどが必要にな るだろう」と話している。  

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