神経再生が実用段階に
人工チューブ開発
臨床試験で次々成果
  
     体の末しょう神経が事故や手術などで、切断あるいは切除された場合、これまで、その間隔が5mm以上あると、つなぎ直すことができなかった。ところが、京都大再 生医科学研究所の清水慶彦教授らが開発に成功した人工チューブを利用すると、切れていた神経が周囲の組織に邪魔されずにチューブ内を伸び始め、再びつながるように なった。
  今年に入り、京都府立医大奈良県立医大で臨床応用され、治療を受けた患者の運動機能や感覚が戻り、痛みが消失するなどの成果が確認されている。  
                       ▽工夫重ねる
      末しょう神経は、脊髄(せきずい)などの中枢神経と異なり、切断されても縫合などにより再生し、機能が戻ることが知られている。  しかし、事故や災害などで切断や損傷を受けた末しょう神経は、修復が不可能なことが多い。そういった神経をつなぎ直すには、自分の体のほかの場所から神経を取っ て移植することが行われてきたが、長さや太さがうまく合わず、つながっても機能しないことも多かった。
  人工のチューブを埋め込み、神経再生を促す研究も、ある程度の成果が得られてきたが、いま一歩だった。清水教授らは、周囲から組織が入り込んで、神経の通り道を 妨げないようにすると同時に、神経の再生に不可欠な毛細血管だけは入り込めるようなチューブ作りに工夫を重ねた。  
 ▽回復後も激痛
     その結果、生体内吸収性を持つポリグリコール酸(PGA)の縫合糸を編んで作った人工チューブを利用し、内部に神経の“足場”となるスポンジ状のコラーゲンを詰 めることで、神経が最も再生しやすくなることを確認した。
  犬を使った実験では神経を8cmも伸ばすことに世界で初めて成功。実用化に向けた臨床試験が両医大でスタートした。  京都府立医大では今年2月、腫瘍(しゅよう)の手術の際、左太ももの運動をつかさどる神経を2・5cm切り取った60代の女性に、このチューブを使用。患者の神 経は順調に再生し、3月に退院した後は歩けるまでに回復した。
  一方、奈良県立医大は、事故で手や足の神経を損傷し、傷などが回復した後も、後遺症の激痛などに悩まされている患者に対し、次々とこのチューブを使った治療に取 り組んでいる。
 ▽「素晴らしい」
     1年前、プレス作業中に右手の人さし指と中指を完全切断した50代の男性のケースでは、指の再接着は成功したが、神経は引き抜かれ、つなげられなかった。このた め冬場や寒冷時に指に激烈な痛みが続き、苦しんでいた。同医大救急医学教室の稲田有史講師らは、4月と5月、それぞれ2cm、1・3cmのチューブを移植。男性は、徐々に指先の感覚が戻るとともに痛みがなくなり、6 月には人さし指の神経が完全につながったことが確認できた。
  このほか、フォークリフトで右足かかとをはがされた後、再接着したが、痛みの後遺症に悩む男性のケースなど計7例の患者にチューブを移植し、効果を上げつつある。
  稲田講師は「現在、切断された手や足の再接着は可能になった。しかし、神経がつながっていない痛みというのは激烈で悲惨。最後までどうしようもなかったのが、神 経再生の問題だった。患者にとって素晴らしいものができた」と話す。古傷などに対しても利用できそうで、適応は広く、チューブのサイズをそろえてお けば、事故などの緊急手術の最中に現場で使えることになるという。

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