患者に優しくリンパ節温存
変わるがん手術の常識
  
    がんの手術では転移を防ぐため、周辺のリンパ節も切除する「郭清(かくせい)」がつきもの。しかし今、センチネルリンパ節生検(SNB)という手法の登場で、早期がんではこの常識が変わろうとしている。最初に転移するリンパ節を検査し、不要な郭清は避ける。手術も個人差を考慮したテーラーメード医療の時代となりつつある。  
                       ▽疑わしきは罰する
    がん細胞はリンパの流れに乗りリンパ節に転移するため、郭清は100年以上前から行われてきた。  実際は半分以上の患者で、切除したリンパ節に転移は見つからないが、乳がんで20個、食道がんでは100個にも上る周辺リンパ節を、手術中に調べる方法はない。「疑わしきは罰する」と、がんの進行度に合わせ一律に切除してきた。
  ただ、リンパ節は重要な免疫組織で、残せるに越したことはない。乳がんでは郭清しても生存率に差はない、との調査結果もある。  病巣に色素や微量の放射性同位元素(RI)を注入、リンパの流れを追うと、最初に流れ込むセンチネル(見張り)リンパ節を特定できる。せいぜい数個で、最初に転移するはずのこれらを切除し調べれば、郭清の必要性が判断できるというのがSNBの発想だ。  
 ▽70%が温存
    1990年代初めに皮膚がんの悪性黒色腫や乳がんで、有効性を認める研究報告が出て脚光を浴びた。  千葉県柏市の国立がんセンター東病院では98年から、乳がん手術でSNBの検証を開始、症例数は約550例に達する。99年からは、触診などでリンパ節転移を認めず、病巣が3センチ以下の場合、SNBで転移陰性ならば郭清を見送っている。
  「転移陰性ならほとんどがリンパ節温存を希望する。99年以降の350例で温存率は70%を超える」と乳腺外科の井本滋医長。うち3例でリンパ節に転移し、再手術で郭清した。  井本医長は「温存例では十分な経過観察が必要。ただ、欧米で大規模な臨床試験が進行中で、SNBは日本でも5、6年後には乳がんの標準治療になるのでは」と話している。
 ▽消化器がんにも展望
    消化器はリンパの流れが複雑で、SNBは難しいとみられていた。この分野では胃がん治療先進国の日本が研究をリードする。  慶応大病院消化器外科は98年から、胃がんと食道がん、直腸がん計約300例の手術で、郭清とともにSNBも実施、その妥当性を検証中だ。現在、見張りリンパ節の同定率は94%、転移診断の正診率は96%。
   北川雄光医師は「近年、検査精度は向上しており、消化器がんへの応用にも展望がでてきた」。まずは、早期胃がんに応用が期待できるという。将来は、内視鏡手術との組み合わせで、患者の一層の負担低減に威力を発揮しそうだ。  ただ「データはまだ足りない」と北川医師。微小転移検出の精度向上など課題は多いが、臨床応用に向け多施設による共同研究が始まろうとしている。

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