重要な「かゆみ」対策
かくことで疾患悪化も
  
   虫さされなどで血が出るまで引っかいた経験は誰もがあるはず。身近な感覚だけに「かゆみ」は軽視されがちだ。しかし、アトピー性皮膚炎の人や腎臓透析患者らには深刻。「痛みよりつらい」という人もいるほどで、かゆみ対策は治療にも重要になっている。    
                       ▽バタフライサイン
   かゆみは末しょう性と中枢性に大別できる。前者は炎症性皮膚疾患が代表で、ヒスタミンなどの生理活性物質が原因。後者は腎臓病や肝臓病の患者が感じるもので、体内のオピオイドと呼ばれるモルヒネに似た物質が関与するとされる。  皮膚疾患の中でもアトピー性皮膚炎はかゆみ対策が特に重要。引っかくことで確実に悪化するからだ。
  「バタフライサイン」と呼ばれる患者特有の症状がある。背中の手が届く場所だけ皮膚炎が悪化、蝶が羽を広げたように見える。骨折で手が使えなくなり症状が好転した例もある。患者も患部を包帯で覆ったり、腕を縛ったりと工夫するが、実際はうまくいかない。
 ▽加速度計
  一方、皮膚症状がない中枢性のかゆみは、激しくかいても引っかき傷になる程度。たわしを使う人さえいる。しかし、いくらかいても満足感を得られず、別の意味でやっかいだ。  国内の透析患者は約23万人。慈恵医大第三病院皮膚科の江畑俊哉診療部長は「その80%が何らかのかゆみを訴え、10-20%は夜も眠れないほど」と話す。
  対策には、かゆみを客観的に計測する必要がある。江畑部長は赤外線ビデオカメラで就寝中の患者を記録、5秒以上続いた引っかき運動を積算した。  アトピー性皮膚炎では炎症が重いほど回数、時間とも多く、薬で眠りを深くしても、回数は減ったが1回ごとの時間は長くなった。  最近、不随意運動や睡眠リズムの研究に使われる腕時計式加速度計で手の動きを測る方法も開発した。治療効果の評価や薬の開発に力を発揮しそうだ。   
 ▽抗ヒスタミン薬
  重いアトピー性皮膚炎のかゆみにはステロイド外用剤や免疫抑制剤がよく効く。かゆみが軽くなると抗ヒスタミン薬が使われるが、その効果への見方は分かれていた。  東京女子医大の川島真教授らがこのほど、第2世代の抗ヒスタミン薬を対象に大規模な臨床試験を実施、効果を確認した。
  ステロイド外用剤を使う患者400人を2群に分け、一方には抗ヒスタミン薬、一方には偽薬を服用させた。1週間後、抗ヒスタミン薬群の方がかゆみの自己評価が明確に改善された。  一方、中枢性のかゆみには、オピオイドの働きを妨げる薬が有望視されている。欧州では臨床試験が始まり、日本でも計画中だ。
  かゆみを感じる仕組みについての神経生理学的な研究も進んでいる。既に、かゆみを感じる神経を特定できた動物もある。人でも特定できれば、新たなかゆみ抑制法も可能になる。京都大の宮地良樹教授は「あっと驚く薬が登場するかもしれない」と話している。

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