大腸がん診断チップ開発
遺伝子で転移予測、阪大
オーダーメード医療に期待

 大腸がんのほとんどで直接の死因となる肝臓転移の起きやすさなどを、遺伝子の働きから個別に診断できる板状の小さな「DNAチップ」を大阪大の竹政伊知朗医学博士(病態制御外科)らが開発した。
 各患者ごとに転移や病状を見極めるのが狙い。約200人を対象にした臨床研究では8割以上で転移予測に成功した。
 竹政さんは「大腸がんの本格的なDNAチップは初めて。再発対策や治療に役立つ」と話しており、製品化を目指してさらに研究を進めている。
 ▽結合して発色
大腸がんの臨床病期は、手術で切除したがん組織を調べ、大腸壁への浸潤の程度、リンパ節への転移状況、肝臓など他の臓器への遠隔転移の有無から総合的に決められ、術後経過が予測される。
 ただ、同じ病期の患者でも、転移するかどうかを見分けるのは容易ではない。悪性度が低くても転移する症例がある。術後の生存期間の把握も困難で、今の診断法には限界も指摘されている。
 DNAチップは、非常に多くの遺伝子(DNA)を張り付けたガラス製の小さな基板。
 細胞の中で活動中の遺伝子では、メッセンジャーRNA(mRNA)が、遺伝子のDNAを鋳型に情報を写し取る作業が行われている。
 このため、例えば、がん細胞を瞬間凍結してmRNAを取り出し、DNAチップに振り掛けると、mRNAが元の鋳型DNAにくっつくので、活動中の遺伝子が分かる。
 このとき、mRNAに特殊な色素をつけておくと、チップ上で結合したDNAが赤や緑、黄などに点状に光るのがコンピューターで読み取れる。
 よく働いている遺伝子ほど、よく発色する。数1000種類以上の遺伝子の働きを、チップ上で1度に把握できるのが特徴だ。
 ▽判別率9割も
 竹政さんらは、大腸がんの細胞を調べ、がん発症や進行、肝臓などへの転移にかかわる遺伝子約4430個を抽出。
 文献からも、大腸がんに関係する遺伝子を選び出し、計約4600個の遺伝子から大腸がんの性質を調べられるDNAチップを作った。
 大腸がんが肝臓に転移していない約130人と、転移した約70人の患部から分離したmRNAを、このDNAチップで解析した。
 がんで働く遺伝子は赤に、正常粘膜で働くのは緑、両方で働く場合は黄に発色する。
 結果は、計約200人中の約170人で転移の有無を見分けられ、診断確率は約90%。経過診断の指標となるリンパ節転移でも調べたところ、約80%の高率で判別できた。
 がんの病理学的な診断でも、悪性度の高いタイプのがんと、低いタイプとでそれぞれ特徴的な遺伝子の働きがチップ上でとらえられた。
 ▽不要な治療なくす
 今後の課題は、精度の向上や低価格化、得られた遺伝子情報の効率的な解析などだ。
 竹政さんらは、診断精度を高めるため、人間の遺伝子をほぼ網羅した3万遺伝子のチップ開発にもDNAチップ研究所と共同で着手した。さらに同大医学部の門田守人教授を中心に大阪府内、兵庫県内の約10病院と共同で、大腸がん患者1000人以上を対象に、新たながん治療法開発を目指す臨床研究を始めている。
 実用化の利点は多い。肝転移の恐れがないと分かった患者には、不要な抗がん剤を投与せずに済む。リンパ節転移を確かめる無駄な開腹手術も減らせそうだ。
 竹政さんは「いろいろな遺伝子を検出できるようになれば、各患者に合ったオーダーメード医療も夢ではない。基礎データを積み重ね、患者への本格的な応用につなげたい」と話している。
 

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