脳梗塞治療に待望の新薬
血栓溶解剤「tPA」
副作用には注意が必要


 脳血管に詰まった血の塊を溶かす新しい血栓溶解薬「組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)」が10月、脳梗塞(こうそく)治療用として承認された。欧米では約10年前から使われており、関係者待望の新薬だが、作用が強いため脳出血の副作用を伴うこともある。日本脳卒中学会は治療指針を作成し、医師らを対象に全国で講習会を実施、適正使用を呼びかけている。

 患者数百万人

 脳梗塞の死者は2004年の厚生労働省人口動態調査によると年間約7万9千人。患者は約100万人以上に上る。脳内出血、くも膜下出血とともに脳卒中と呼ばれ、がん、心臓病と並び日本人の三大死因の一つとされる。
 軽症を除く脳梗塞の死亡率は20%程度で、くも膜下出血などに比べれば低い。だが国立国際医療センターの上坂義和(うえさか・よしかず)医長(神経内科)は「亡くなる人と後遺症が出る人を含めると7、8割の人は元の生活に戻れない。後遺症に苦しむ人が多く、介護の負担が大きい病気だ」と話す。
 脳細胞は血流が止まるとすぐに損傷を受ける。このため脳梗塞では血流をいかに早く再開できるかが治療結果を大きく左右する。
 だが「tPAが使えるようになる前、国内には有効な治療法があまりなかった」と上坂医長。多くの病院では、脳の保護剤や血流を増やす薬を使いながら、症状が落ち着くのを待つしかないのが実態だったという。
 
社会復帰1・5倍に

 今回承認されたtPAは、もともと血液中にある酵素。血栓ができるとそこに付着し、プラスミノゲンというタンパク質をプラスミンという酵素に変え、この酵素が血栓を効率的に溶かす。
 脳梗塞の発症直後の治療に使おうと試みたのは実は日本が早かった。だが米企業との特許トラブルで国内での治験はストップ。欧米に先を越され、海外では広く使われていながら国内では使えない状況が続いていた。
 tPA治療は、定められた量の10%を静脈内に急速投与し、残りを1時間かけて点滴する。米国での臨床試験では、tPAで治療すると社会復帰できる患者が26%から1・5倍の39%に増加。国内の臨床試験でもほぼ同様の結果が得られ、大きな治療効果が示された。

一刻も早く病院へ

 ただ血栓を溶かす作用が強いだけに、脳出血の副作用には注意が必要だ。日本脳卒中学会が作成した指針でも「血栓溶解薬はもろ刃の剣」と指摘。対象を発症後3時間以内の患者に限定、CT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)で頭蓋(ずがい)内出血がないことを確認するよう求めるなど、厳しい条件を付けている。
 同学会の講習会で講師も務める上坂医長は「正しく使えば恩恵を受ける人が増えるが、基準に従わずに使うと副作用で死亡率が上がることが分かっている。気軽に使うのは危険で、CT画像の読み取りなど専門家としての能力が問われる」と強調する。
 脳梗塞を起こすと、半身まひや、ろれつが回らない、めまいなどの症状が出ることが多い。だが症状が出ても、様子をみてしまう人が多いため、3時間以内に病院に来る人は少ないのが現状だ。
 このため臨床試験中、同医療センターでtPA治療の対象になったのは17人に1人程度の割合でしかいなかったという。上坂医長は「早く病院に来てtPAを使えれば、後遺症を残さず元の生活に戻れる可能性が増える。症状が出たら一刻も早く救急車を呼んでほしい」と訴えている。


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