患者の2割でがん消失
乳がんの術前療法
抗がん剤が高い効果

 乳がんの手術前に行う「術前化学療法」が徐々に普及しつつある。抗がん剤の投与で、がんの約8割が縮小し、2割前後では消失してしまう効果が見られるからだ。現在、再発乳がんの第一選択薬として使われているタキサン系の抗がん剤ではさらに効果があることも分かり始めている。ただ、治癒率や生存率のデータがまだ不十分で、効果が実証されつつあると言った方が正しいようだ。
 ▽大きい利点
乳がん患者で、治癒する(10年間再発なし)のは6-7割。「患者の約3分の1は再発する。再発すると治癒するのは3-5%になってしまう。乳がんは初期治療で治癒を目指すことが基本中の基本だ」と渡辺亨・国際医療福祉大教授(前国立がんセンター中央病院内科医長)。
 通常、乳がんの術前化学療法は、がんの大きさから乳房温存手術が適切でないと判断される場合や、かなり大きくなって見つかった際に、がんを小さくして手術するために実施する。
 1985年から術前療法を実施してきた慈恵医大臨床腫瘍(しゅよう)部の小林直・助教授(腫瘍内科)は「術前療法のメリットは、何よりも薬剤感受性が高く、全身状態がよい時期に薬を使えるので、副作用が強い抗がん剤の投与ができるなど、治療戦略上の利点が大きい点」と話す。
 ▽大きな流れに
 実際には①治癒手術ができないとされる例を手術可能にするとき②温存手術が不可能と判断されるが、患者が温存を希望するとき③治癒率を上げたいと期待して④術後の抗がん剤投与の効果を事前に知りたいとき―などに行われるという。
 同助教授は「術前療法は、理論的には術後療法よりも優れた治療戦略だが、厳密な比較試験では無再発生存率や生存率の差はわずかで、まだ優れているとの証明はできていない。しかし、術前療法をした方が、しないより、同等か同等以上であることは確かで、術前療法が大きな流れになっていくことは間違いない」と慎重な中にも積極的な姿勢を見せる。
 一方、東京都立駒込病院の戸井雅和・乳腺外科部長は「術前療法では抗がん剤が劇的に効く。特に原発のがんでは効果が高く、術前では普通の抗がん剤でも十分効く。抗がん剤投与で約2割の患者でがんが消失し、5割ぐらいは手で触れても分からないぐらい縮小する」と指摘する。
 ▽27%消失
 今は日常的に術前療法を行うようになったという同部長は「術前療法の大きな効果が分かったのはつい最近」と話す。
 2001年末、タキサン系の抗がん剤ドセタキセルを使った術前療法で25%のがんが消失するというデータが大規模試験で初めて出た。「そのときから世界が走り始めた」(同部長)。
 がんが消失しても手術はする。現在、どのくらい切除したらよいか、試行錯誤が続いている。
 術前療法を行わない所もある。抗がん剤投与には半年かかるため、少しでも早く取り除きたいと思う外科系の医師や患者も少なくないからだ。
 「慣れてしまえば大丈夫と思うが、分かっていても、まだ広まっていない。しかし、世界は術前療法に向かっている。がんが消えた2割の人の10年生存率は80数%に達している」と戸井部長。
 再発乳がんに対するタキサン系抗がん剤の比較試験結果を欧州臨床腫瘍学会で発表した米テキサス大のピーター・ラブディン助教授は、衛星中継会見で日本からの質問に「術前療法では大きな成果が出ており、ドセタキセルで患者の27%でがんが消失した。治療期間は終わったが、結果を見るためにあと5年待つ必要がある」と述べている。
 

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