普及しだした「感染制御」
「治す」から「予防」へ
深刻な院内感染に


 「病院で逆に風邪をもらってきた」―。こんな経験がある人もいるはず。それどこ ろか、抵抗力の落ちた入院患者には、院内感染は常に脅威になる。そんな状況を 改善しようと、病院には今、「感染制御部」というセクションが登場している。

 専任者の設置

 「感染症にかかった患者の原因菌を特定し、治療するのが従来の感染症学。感染症を広げないようにする『感染制御』の考えはなかった」
 大阪大病院感染制御部の朝野和典(ともの・かずのり)病院教授はこう話す。感染制御は予防医学として公衆衛生学の守備範囲とされ、感染症学の授業ではほ とんど触れられなかったという。
 だが米疾病対策センター(CDC)のガイドラインに、標準予防策などの院内感染対策が盛り込まれた1990年代後半から日本でも注目されはじめた。厚生労働省 も2003年、特定機能病院には専任の院内感染対策者を置くよう省令を出した。
 現在では、多くの国立大病院が感染制御部を置くようになっている。
 
院内感染の監視

 2年前に設置された阪大病院感染制御部は医師2人、看護師、検査技師各一人の計4人の専任スタッフで、約1100床の病棟の感染症発生に目を光らせる。
 患者を感染症から守るため、出入り業者まで含めたインフルエンザ、B型肝炎、麻疹(ましん)などの各種ワクチン接種と、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの院内感染の発生動向調査、感染症治療と業務は多岐にわたる。本年度予算は2千万円近くに上る。
 例えば、患者から感染する危険がある医療従事者の針刺し事故も、発生月別や状況別などのさまざまな分析をすることで「新人職員が業務に慣れない年度前半に多い」などの傾向が判明。有効な対策が可能になり、発生件数は減少した。
 鳥インフルエンザや新型肺炎(SARS)などの新興感染症への対策も重要だ。同病院は2年前のSARS騒ぎを機に、地元医師会とも協力し、玄関脇に室内の空気が院内に漏れないよう陰圧にした「感染制御外来」を設けた。普段も、空気感染する結核や麻疹などの疑いがある患者の診察に使っている。

横の連携

 さらに感染制御部が力を発揮するのが院内感染のアウトブレーク(大規模発生) 。
 阪大病院では昨年、多剤耐性緑膿(りょくのう)菌の院内感染で死者が出た。多く ても月に2人程度だった感染者が5月に5人、6月に4人と急増。結局、手術で使った食道に入れる超音波診断装置の表面が傷つき、菌が繁殖していたためと分かった。
 「感染場所が手術室と分かるまで10日間もかかった。一時は手術中止や集中 治療室の閉鎖も議論された」と朝野教授。
 ただ「異常にいかに早く気付くかが重要。感染制御部が無ければもっと深刻な事 態になったかもしれない」と指摘した。
 国立大病院では昨年は4件、今年も3件の重大な院内感染が起きている。こうした例では国立大病院長会議が設置した感染対策協議会が各大学の専門家を派遣、外部調査を行う。今秋からは、感染対策専門家の大学間の相互訪問や改善支援も開始、横の連携で全体のレベルアップを目指す。私立や公立の大学病院も参加しはじめた。
 「これだけ耐性菌が広がる中、院内感染はゼロにはできない。ただ減らすことはできる」と朝野教授。そのためには抗菌剤の使い方を含め、十分な感染制御の訓練を積んだ専門家を病院に置くとともに「いち早い情報共有が必要で、積極的な情報公開の風土をつくるべきだ」と指摘している。


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