救命率向上へ実務研修
救急現場の医師を対象に
搬送直後の治療がカギ

 交通事故などで負傷し死亡した患者について、厚生労働省の研究班が全国の救命救急センターを対象に行った調査で、適切な治療を行えば、死者の4割は救えた可能性があるとの結果が判明。救急医らはこの改善に向けて、最も肝心な搬送直後の診断・治療の標準化や、治療成績により施設ごとの課題を抽出するなどの取り組みを始めた。
 ▽模擬治療
「あなたは当直医です。研修医と看護師に指示を与えてください」
 講師が注意事項を伝え、模擬治療が始まる。
 感染防御のガウン、マスクを点検。患者役の人形に「○○さーん、分かりますか」と呼び掛け、首を固定しながら呼吸状態を見る。「呼吸に障害があるので気管挿管をします」。受講者は講師の助言を受けながら、次々と処置をしていく。
 日本外傷学会と日本救急医学会の医師らが始めた外傷初期診療の研修コース。1回の受講者は32人に限られるが、講師は60-70人も必要だ。30-40代の中堅医師を中心に、週末に1泊2日の日程で行われる研修には、遠隔地からの参加も多い。
 救急医療の現場で働く医師らに、なぜこうした研修が必要なのか。
 研修コースを企画した大阪府立泉州救命救急センターの横田順一朗所長は「例えば、足の大きな出血に目を奪われ、骨折の治療を始めると、突然血圧が低下し、手遅れになる場合がある。腹部の出血を見落としていたからだ。最初の30分から1時間に必要なことを徹底して身につける必要がある」と指摘する。
 ▽重要度をチェック
 ここで重視するのは、重要度が高いものから行うABCDEという五つの処置。気道確保と頚椎(けいつい)保護、呼吸管理と胸部外傷の処置、循環維持と止血、中枢神経障害の評価、全身を脱衣して体表面を観察し体温管理する-の頭文字を取ったものだ。
 腹部の出血なら、血圧低下などの異常があればABCDEのどこかに兆候が出る。横田所長は「何もなければ15秒でチェックは終わる。最重症患者でも20分以内に終える必要がある」という。これらが安定してから、初めて負傷部位の詳細な検査、治療を始める。
 外傷患者をもっと救えるということを厚労省研究班の調査が裏付けた形で、こうした取り組みが本格化した。救命救急センターは、各地の救急医療の“最後のとりで”。だが、調査では施設間格差が大きいことも浮き彫りになった。
 ▽全国同じレベルに
 調査結果をまとめた国立東京災害医療センターの大友康裕救命救急センター長は「外科医が手近にいるか、手術はすぐにできるか、という病院の体制にも課題がある」と話す。一刻を争う患者は、その地域の医療機関で治療を受けるしかなく、日本のどこでも同じレベルにする必要がある。
 医療施設に自発的な改善を促すため、救命救急センターなどを対象に、全国平均と自分の施設の治療成績を比較するための患者登録制度が年明けにも始まる。
 有賀徹・昭和大教授によると、患者搬入からCTスキャンで診断するまでの時間は、30分以内の施設が六割を占める。これを目安として、例えば45分かかっている施設には短縮するよう努力を促す。「地味な方法だが、こうした取り組みで診療の質の向上を目指したい」と話す。
 米国は、医師教育や外傷患者を集中的に治療するセンターの整備で、予測外死亡を大幅に減少させたという。日本でもヘリコプターなどを活用、外傷センターを数カ所設置して、患者を集中させる方法が有効だ、との指摘もある。
 

ヘッドラインへ戻る

記事、写真、グラフィックスの無断転載を禁じます。
2003 Kyodo News (c) Established 1945 All Rights Reserved