手術で治る難治性てんかん
重い発作から脳を守る
新技法で後遺症も軽減


 薬を服用しても発作が治まらない難治性てんかん。だが現在では、多くの患者が手術で治るようになってきた。国内のてんかん手術の第一人者、東京都立神経病院清水弘之(しみず・ひろゆき)・脳神経外科部長は「特に小児では、重い発作の放置は精神運動発達障害につながる。脳を守るためにも時期を逃さず手術を」と訴えている。

 切除と遮断

 てんかん発作は脳に異常な電気信号が流れるため起きる。この異常信号を出すのが「焦点」。いわば脳の傷で、先天性のほかにも仮死分娩(ぶんべん)や脳炎、外傷、脳腫瘍(しゅよう)などさまざまな理由でできる。
 焦点は脳の表面を覆う灰白質にあり、その場所により発作のタイプは異なる。焦点の位置は発作の型と脳波検査、画像診断で突き止められる。
 手術方法は大別して二つ。焦点がある部分を取り除く切除術と、焦点が広範囲に及んだり、言語や運動に障害が出る場所にあるため切除できない際に用いる遮断術だ。
 後者の代表は、脳の表面に5ミリ間隔で深さ四ミリの溝を刻む軟膜下皮質多切術(MST)。神経細胞の横の連絡を絶ち、異常信号の広がりを防ぐ。
 脳の左右に焦点があり、双方の異常信号が共鳴すると、転倒発作などの重い発作になる。この場合は、脳の左右をつなぐ脳梁(のうりょう)の切断が発作の軽減につながる。

 ▽記憶の保持

 焦点が最もできやすいのが、脳の左右の深部にある「海馬」。切除すると70―80%で発作が完全消失。残りも発作頻度の大幅な減少が望める。
 ただ海馬は記憶の出し入れを担うため、左側の海馬に焦点があり、しかも委縮していないと、切除後に新たな知識の学習能力が低下、複雑なことを言われても理解できなくなる問題があった。特に、発症が思春期以降で手術時の年齢が高い場合はその危険が高くなる。
 このため清水部長はMSTを海馬に応用、切除しない治療法を検討。記憶回路を傷付けずに海馬に達する経路を発見し、2001年1月に「海馬多切術」と名付けた最初の手術を実施した。
 「狭い切開創から脳の深い場所を処置するため難しい」(清水部長)が、既に27人で片側の海馬を手術。術後一年以上たった17人では、実に14人で発作が消失、二人がほぼ消え、記憶障害もなかった。  ただ両側の海馬への治療成績は悪く「今後の課題」(同)という。
 
電気刺激も効果

 焦点が脳の両側にある人や、脳全体に種をまいたように散在する人は、現状では手術で治すのは難しい。この場合に適しているのが、首の迷走神経に電極を固定し、胸に埋め込んだ装置から電気パルスを定期的に送る「迷走神経刺激法」だ。
 脳全体に電気刺激が届くことで発作が減る。日本は未承認だが、米国では1997年に承認、今では年間3千例も実施されている。
 国内でも10年ほど前に34例の臨床試験を実施した。清水部長は「発作消失率は半年後で平均約30%。一年後には40―50%に達し、その後下がらなかった。手術ほど劇的に改善はしないが有効性はある」と話す。
 個人輸入で埋め込む人もいるが、装置は一台約200万円。このため承認申請を目指した治験の実施も検討されている。
 転倒発作や強い全身けいれんを繰り返すと、年齢が低いほど脳へのダメージが蓄積、習得した言語機能を失う退行現象が出ることもある。清水部長は「重い発作が出てから一年ちょっとで取り返しがつかなくなる例もある」と一刻も早い手術の重要性を強調している。


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