3年ぶりに指が動いた
中3、人工チューブで
神経再生で次々成果
 京大再生医科学研究所の清水慶彦教授らが開発した神経再生用の人工チューブの使 用で、事故などで損傷したり、切断された患者の末しょう神経が次々とつながり、知 覚や機能がよみがえっている。右ひじ骨折で神経を損傷し、親指と人さし指が動かな くなった中学3年生は、人工チューブ埋め込み後、3年ぶりに指が動き始め、物をつ かめるまでに回復している。奈良県立医大救急医学教室の稲田有史講師は「予想をは るかに上回る結果が出ている」と驚きを隠さない。
▽既に全国から37人
同講師が今春、人工チューブを埋め込んで、指の神経再生に成功した最初の男性の ケース以後、これまでに人工チューブを使った手術は58、患者も全国から37人を 超えた。いずれも埋め込み手術後、3カ月後には、かなり回復することが確かめられ ている。
 最初のケースでは、プレス作業中に右手の2本の指を切断。指の接着は成功した が、神経が引き抜かれ、つなげられなかった。このため冬場や寒冷時に指に激烈な痛 みが続いていた。
 今年4、5月に双方の指に人工チューブを埋め込むと、痛みは徐々になくなり、指 の感覚が回復。その後、電気生理学的に完全に神経がつながったことが確認され、現 在は動き、感覚ともほぼ正常な指の状態。
 フォークリフトで右足のかかとをはがされた男性の場合、かかとは接着されたが、 神経がつながらないまま、痛みでまともに歩くことができなかった。
 人工チューブの埋め込み後、痛みが取れ、現在はかかとをついて普通に歩けるよう になった。感覚も徐々に戻りつつあるという。
▽自分でつながる
 末しょう神経は切断されても再生する(つながる)ことが知られているが、手の細 かい神経の場合、切断直後につないでも「機能が回復するのは70%ぐらい。ひどい 時にはほとんど機能が戻らないこともある」(同講師)という。  通常、神経は一本の電線のようなイメージがあるが、実際には知覚神経や運動神経 が複雑に束になっており、複雑な光ファイバーのようなものという。切断面も見て も、どれがどの神経か分からず、つないでもなかなか正しくつながることがない。  このため、再びつながっても自分の意思とは違った動きをしたり、動かないことが 多い。ところが、人工チューブを使った場合、「再生して伸び始めた神経の束は、最後は自分で正しい“相手”を見つけてつながっている可能性が高い」(同講師)。  これまでの好成績と京大再生医科学研究所の実験結果がそのことを示しているので はないかという。
▽一番よい方法で再生
 中3生の場合、3年前に右ひじ骨折で、指の運動や手のひらの感覚をつかさどる正 中神経を損傷し、指が動かなくなった。  7月にひじの内側を切開し、長さ8cmの人工チューブを埋め込んで正中神経をつ ないだ。驚くことに手術直後に親指と人さし指が動いたという。  その後、2本の指は本人の思うように動くようになり、1カ月には物を持てるほど になった。3カ月目にはコインやピンなどの小さいものもつかめるほどに回復してい る。  「神経がつながるはずがない手術直後に指が動いたのはまだ説明できないが、現 在、本人の思い通りに指を動かせるようになったのは事実。しかし、すべての大人で こうなるわけではないだろう」と稲田講師。  「人工チューブでもそうだが、要は“最適な環境”さえ与えてやれば、生体が自分 で一番よい方法で再生するということではないか」と話している。  同講師の連絡先は救急医学教室、ファクス0744(22)5992。電子メール は yuji-829@ja2.so-net.ne.jp

ヘッドラインへ戻る

記事、写真、グラフィックスの無断転載を禁じます。
2002 Kyodo News (c) Established 1945 All Rights Reserved