ボツリヌス毒素が効果
脊髄損傷による尿漏れに
ぼうこう収縮を抑制

 脊髄(せきずい)損傷に伴う重度の尿漏れに対して、ボツリヌス菌の毒素から作った製剤をぼうこうに注射する治療法が効果をあげている。毒素によってぼうこうの収縮が抑制されるためで、通常の薬物治療が効かない切迫性尿失禁の患者にも使える可能性があると注目されている。


  ▽安心して外出
 「いつもトイレが気になって、ほとんど外出できませんでした。でも、この治療を受けてからは5、6時間トイレに行かなくても大丈夫。安心して出かけられます」
 こう話すのは、鳥取大病院(鳥取県米子市)でボツリヌス毒素による国内初の尿漏れ治療を2003年から受けている50代女性。
 約20年前に脊髄の手術を受け、その後、尿漏れが悪化した。1回に出る尿の量が少なく、何度トイレに行っても長く歩いたりすると尿が漏れてしまうことがあったという。  治療開始後は、自分で尿道にカテーテルを入れて排尿する自己導尿の必要がある。それでも「スッキリ出るので安心。冬でも外出でき、泊まりがけもできる。この治療を受けて本当に良かった」と喜んでいる。
 

▽けいれん治療にも

ボツリヌス菌は土の中などにいる嫌気性菌で、食中毒の原因となる。その毒素は、神経末端から神経伝達物質アセチルコリンが分泌されるのを阻害し、筋肉の収縮を抑える。このため、目の周りの筋肉が過度に収縮し目が意志に反して閉じてしまう眼瞼(がんけん)けいれんの治療や、しわ取りなどの美容分野で使われている。
 鳥取大病院の宮川征男教授(泌尿器科)によると、ボツリヌス毒素を尿漏れ治療に初めて試みたのはスイスの女性泌尿器科医だった。車いすの脊損患者が苦しんでいるのを多く診ているうちに「毒素を筋肉に注射すれば、ぼうこうが勝手に収縮しなくなり、尿漏れがなくなるのではないか」と思い付いて実施、2000年に成果を発表した。
 ぼうこうが収縮しなくなると、今後は逆に尿を出せなくなる。だが、交通事故などで脊髄を損傷し下半身まひなどになった患者は、既に自己導尿をしているケースが多いため大きな問題はない。
 「脊損患者は車いす生活の上、尿漏れのためおむつを着け、周りに遠慮しながら生きている。そういう人の尿失禁がなくなる。夢のような治療」と宮川教授は言う。

 

▽6―9カ月持続
 治療は、局所麻酔をして尿道からぼうこう内部に内視鏡を挿入。ぼうこう壁の内側30所にボツリヌス毒素を注射する。4、5日たつと筋肉が収縮しなくなり、効果は6―9カ月間持続する。効果が薄れてきたら再治療が必要だ。
 筋肉が緩むため、尿がたまってもぼうこう内部の圧力が高くなりにくく、腎不全を防ぐ作用もある。
 ヨーロッパでの臨床試験では、96%の脊損患者で効果が確認された。宮川教授によると、欧米では脊損患者だけでなく、突然の尿意を我慢できない一般の人への使用も試みられているという。
 こうした患者は通常、脊損患者と違って自己導尿をしていないため、毒素が効き過ぎて尿が出なくならないよう量や濃度を調節する必要がある。薬物治療が効かなかった80代女性に、脊損患者の3分の1の量の毒素を使ったところ「失禁がなくなり排尿にも問題がなかった」(宮川教授)。治療法が確立すれば対象となる患者は大幅に増えそうだ。




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