「患者目線の医療が必要」
診療所経営、開業を支援
   訴訟リスクや過酷な勤務に耐えられず病院を退職した医師の開業や、経営に行き詰まった医療機関の立て直しを支援するビジネスが活況を呈している。「患者のための医療の実現」を掲げる会社がある一方、「医療は金になる」と話す関係者もおり、“医療崩壊”の現状が商機拡大を支える一面も。半面、業界の実態については国も把握できておらず、識者からは「トラブル防止のため何らかの規制も必要ではないか」との声も出ている。
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 じゅうたんが敷かれた待合室。窓の外に目を向けると、行き交う新幹線とそびえ立つビル群が視界に入る。静かに流れる音楽がくつろいだ雰囲気を演出していた。
 
▽再生
 JR東京駅から徒歩1のビル3階。「イーク丸の内」は、乳がんなど女性の疾患が専門の診療所だ。乳房エックス線撮影装置(マンモグラフィー)などを備え、大病院での経験を持つ医師約10人とスタッフは女性ばかり。関係者は「患者の満足度を調査したら、98%が再来を望むという結果が出た」と胸を張る。
 「検査を受ける患者の緊張を和らげるため診察室でアロマをたくなど、細やかな心遣いを意識している」と谷口ひとみ副院長。
 だが、別の医療法人が経営していた数年前までは患者が集まらず、閉鎖の危機に直面していたという。毎月の赤字は約2千万円。苦境に陥った当時の院長が再建に向け助言を求めたのが、医療機関の経営・開業支援を手掛ける企業「メディヴァ」(東京)だった。
 社長の大石佳能子さん(48)が振り返る。「一言で言えば、経営感覚が完全に欠落していた」。無断で休暇を取る医師。健康診断の申し込みを独断で断る事務員…。「スタッフの統制も取れず、患者への応対も満足にできない。ただ、婦人科系の疾患に特化した理念は魅力的で、再生の余地はあると思った」
 スタッフを総入れ替えさせ、つてを頼りに谷口副院長ら医師を集めた。途中、院長が経営を投げ出したため、知人の医師らでつくる医療法人に併合。昨年、再スタートすると業績は急激に回復した。
 大石さんは言う。「大切なのは患者の視点に立ったサービスの提供。その結果、信頼が生まれれば医療側の人間も幸せなはず。その手伝いが私たちの仕事です」
 
▽違和感
 米国の経営コンサルティング大手で小売業のマーケティングを担当していた大石さんが医療界に関心を持ったきっかけは、初めての出産に臨んだ36歳の時の体験。
 大石さんによると、かかっていた医療機関で何の説明もないまま診察まで3時間も待たされた。それが当然のようだった。次回の診察日を指定された際、仕事の予定があるので別の日にとお願いしたが、女性医師は「担当を変わるわよ」とカルテを投げ付けてきた。
 「顧客などという発想をまったく持たない世界。『何だこれは』という感じだった」  違和感をぬぐい去れず、職場に復帰後、医療界の実態を知るため50人近い医療関係者に話を聞いた。閉鎖性の強さを感じる一方、「患者目線」の必要を訴える医師にも出会った。
 「いっそ医療現場に飛び込んで、理想を実現する診療所をつくってみようか」。コンサルティング会社を退職し、2006年6月にメディヴァを設立。従業員は現在約50人で、07年12月期の売上高は約7億円。
 
▽当事者
 事業の柱は開業を希望する医師のサポートで、経営コンセプトの決定や土地選定に向けた調査、資金調達の計画策定などを請け負う。開業を手掛けた診療所は約70で、その後のサポートも継続。昨年11月に開いたセミナーには約150人の医師が参加した。
 「病院勤務のきつさを訴える医師は多く、開業希望者が減ることは当分ない。ただ、開業医の仕事は決して華やかなものではない。何をやりたいかという明確なイメージが必要です」
 相手の話に真摯に耳を傾けられるか。トラブルが起きた際、的確な判断を下せるか。医師と開業に関する契約を結ぶかの見極めは慎重だ。向かないと思えば「もう少し今の病院で頑張られた方がいいのでは」と諭すことも。開業後も経営状況を確認したり、患者やスタッフ間でトラブルがないか目を配ったり“当事者”としての日々が続く。
 「患者の視点から医療を変えていきたい。そのためには、コンサルタントというよりも、オペレーターとして自らも責任を持って内側から医療にかかわることが大事だと思うんです」。(共同通信 阿部拓朗) (2009/05/12)

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