はしかの怖さを訴え
数年後に脳炎、寝たきりに
ワクチン追加接種は低迷
 かつては感染すると多くの人の命を奪い「命定めの病」と恐れられた、はしか(麻疹))。その怖さは今も変わらない。まれに起きる亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は、2歳未満ではしかにかかり、治った数年後に神経症状が起こり寝たきりの状態になる。治癒は難しく、介護者にも大きな負担を強いる。
 はしかの流行阻止のため昨年4月から新たに始まった13歳と18歳へのワクチンの追加接種率が低迷する中、SSPE患者の家族らは「はしかを日本からなくしてほしい」と訴える。
 
▽意識なく
 横浜市に住む会社員畑秀二さん(59)の長男勇樹さん(26)は自宅で寝たきりの状態が続く。目は開けているが呼び掛けには無反応。両腕は体の内側に曲がったままだ。
 体に変調が起きたのは13歳だった中学2年の夏。学校では体操部に所属し、県の大会で上位に入賞するなど活躍していたが、学校から帰宅しても延々と寝てしまうことが増え、成績も落ちていった。
 秀二さんは「クラブ活動のやり過ぎだ」と怒っていたが、その後勇樹さんは自転車で転倒してけがを負ったり、突然力が抜けるような動作が見られたりしため医療機関を受診、約2週間の検査でSSPEと診断された。
 発病から10年以上がたち、勇樹さんは腹部に管を入れて栄養を取り、のどにも呼吸やたんの吸引のための穴が開いている。脈拍と血中の酸素濃度を常時計測し、異常値が出るとアラームが鳴る。母の瑞枝さん(57)も気が休まることはない。
 
▽1歳で
 原因は1歳の時にかかった重いはしか。かぜでワクチンを打ちそびれたという。
 SSPEは遅発性のウイルス感染症。はしかのウイルスが脳内に潜伏している間に変化し、通常とは異なった性質を持つようになって起きるとされる。
 ゆっくり進行し数年の潜伏期間で発病。その後、数カ月から数年かけて神経症状が進み、知的障害、脱力発作などが見られ歩行や食事もできなくなる。やがて意識がなくなり全身の筋肉が緊張、自発運動もなくなる。
 「描いていた家族の将来像が崩れた。一気に否定されたような気持ちになった」と、秀二さんは勇樹さんの発病当時を振り返る。
 患者や家族でつくる「SSPE青空の会」事務局長の中村一さん(55)=横浜市=は「何年にもわたり家族が24時間付ききりになる」と苦労を語る。自身も息子の良君を長い闘病の末、16歳で亡くした。
 
▽撲滅を
 「SSPEの予防には、はしかにかからないようにすることが重要だ。これ以上患者を出さないためにもワクチンを接種してほしい」と、厚生労働省の担当者。
 かつて年間10―15人だった国内のSSPE発病者数は、ワクチンの普及後は同5―10例に減少した。接種率が高い欧米では、患者発生がほとんどなくなったという。
 しかし日本では、はしかの流行が繰り返され、2007年春には若者を中心に拡大。全国の大学や高校で休校が相次いだ。流行阻止のため新たに始まった13歳、18歳へのワクチンの接種率(全国平均)は08年末時点で13歳が約66%、18歳が約58%と、目標の95%にはほど遠い。
 「日本ははしか患者の海外への“輸出国”。技術力の高い日本でワクチン接種率が上がらないのは行政の怠慢だ」と、中村さん。秀二さんも「こういう悲劇を繰り返してほしくない」と、はしか撲滅を心から願う。(共同通信 山本峰次) (2009/03/17)

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