骨髄細胞で肝硬変改善
機能を再生、副作用なし
山口大で初の臨床研究
 国内で約30万人の患者がいるとされる肝硬変は根治につながる治療法がなく、肝臓がんに進行する場合も少なくない。山口大の坂井田功教授(消化器内科)らは患者自身の骨髄細胞を使い、肝機能を再生させる治療に取り組んでいる。臨床研究として22人に実施し、ほぼ全員に何らかの効果を確認。副作用も見られないという。
 
▽線維が消えた
 肝硬変は、ウイルス感染や過度の飲酒などによる肝炎が進行し、肝細胞が線維化して硬くなってしまった状態。肝臓は他の臓器に比べて再生力が強いが「ある程度線維化が進むともう戻らない。この『線維化部』を、いかにして消すかが課題だった」と坂井田教授。
 坂井田教授は人工万能細胞の一つ、ES細胞を使った治療を試みたが、ES細胞自体ががん化する問題に直面した。頭を悩ませていた2000年、米国の研究論文に目が留まった。男性から骨髄移植を受けた女性の肝臓から、男性にしかないY染色体が見つかったという内容。「骨髄細胞は肝細胞に分化する能力があるかもしれない」と考えたという。
 マウスで実験した結果、骨髄細胞は線維化した部分にだけ定着し、徐々に線維を解かしていくのが確認された。線維化部は約1カ月後には半減し、肝機能の数値も改善した。坂井田教授らはさらに副作用がないか入念に調べた上で、03年11月、B型肝炎から重度の肝硬変に進行した60代男性に世界初の臨床研究を始めた。
 
▽拒絶反応なく
 治療法は難しいものではない。全身麻酔をかけ患者から骨髄液約400ミリリットルを採取。洗浄、濃縮した後に、点滴と同じように腕の静脈から投与する。麻酔から点滴まで半日もあれば終わる。
 1例目の患者は治療の3日後、肝機能の指標となるアルブミン値や、線維化の進行度を示す血小板値が改善し、腹水の量も減った。他の患者でも腹水が消えるなど同様の効果が相次いだ。
 「自分の骨髄細胞なので、拒絶反応や倫理面の問題がないのは非常に大きい」と坂井田教授。肝硬変の治療の最終手段は肝移植だが、臓器の提供者は少ない上、術後は免疫抑制剤を飲み続ける必要がある。
 新しい治療を受けたある患者は肝機能が回復したことで、それまで強い副作用のため使えなかったC型肝炎治療薬のインターフェロンを使えるようになった。肝炎ウイルスが完全に消えたといい、新治療は他の治療への橋渡し役としても見通しが立ってきた。
 
▽先進医療申請へ
 なぜ骨髄細胞が肝硬変に効果があるのか、根本的な仕組みは分からず、解明は今後の課題だ。当初は骨髄細胞が直接、肝細胞に分化していると考えられていたが、坂井田教授は「肝臓に残る健康な細胞が骨髄細胞で刺激され、増殖するようになった可能性もある」。
 採取した骨髄細胞の全量を一度に投与しているため、治療を繰り返せないのも難点。時間が経過すると、アルブミン値が再び低下する患者もおり、将来は細胞を一部凍結保存し、分割して投与することも考えている。
 また、採取した骨髄細胞を培養して増やす技術や、線維化した部分により効率的に定着するような処理法が確立されれば「10年以上の長期間、治療を続けられるのではないか」と、坂井田教授。
 同様の治療は山形大や韓国・延世大などとも共同で始めている。坂井田教授は近く、医療費の一部が負担される国の先進医療に認められるよう申請する予定だ。(共同通信 新居一樹)(2009/02/24)

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