重い「あがり症」は治療を
身体症状で日常生活に支障
低い認知度、社会的損失も
 人前での話や食事に強い苦痛を感じたり、どきどきする、どもるなどの身体症状が出たりして日常生活に支障をきたす「社会不安障害」(SAD)。いわゆる重い「あがり症」だ。患者は米国で7、8人に1人ともいわれ、国内でも増加が指摘されている。専門家は「この病気の認知度は低く、本人にも社会にとっても損失が大きい」と早期治療を訴える。
 
▽性格ではない
 40代の会社員の男性。小さいころから人前で話をするのが苦手だったが、数年前に部下の結婚式のあいさつで失敗して以来、大勢の前では極度の緊張で会話ができなくなった。脈拍が上がり、口にも乾きを覚えると訴え、和楽会横浜クリニック(横浜市)の山田和夫院長に中等度のSADと診断された。
 山田さんによると、SADはパニック障害や空間恐怖症、強迫性障害などから成る不安障害の1つ。日本人ではこの男性のような「スピーチ恐怖」が全体の約60%、「視線恐怖」が約20%をそれぞれ占める。
 症状には、あらゆる社交的場面で恐怖を感じる「全般性」のものと、電話やスピーチなど特定の状況だけで恐怖を感じる「非全般性」のものがあるという。
 山田さんは「性格であれば、同じ状況を繰り返して慣れることもできるが、SADは病気。治療しなければ慣れることはないということを分かってほしい」と強調する。
 
▽治療開始は30代
 2005年に国内で約600人を対象に行われた調査によると、SADの説明が「自分に当てはまる」と回答した人は13・4%に上り、1990年代の米国人の調査による生涯有病率とほぼ同じ。08年の別の調査では、悩みを抱える人は圧倒的に会社員が多く、学生や主婦が続いた。
 山田さんによると、SADを初めて発症する年代で多いのは中学生や高校生。他人を意識し始めるこの時期の失敗体験などが引き金になりやすいためだ。一方、受診の平均年齢は30代で「かなりの人は治療を受けないまま長期間罹患している。SADは引きこもりや不登校の増加ともかかわる」。
 亀井美和子・昭和大薬学部教授も「罹患期間の長い患者が進学や就職、結婚などの機会を失っている可能性が大きい」と社会的影響を指摘する。
 亀井さんは米国の有病率のデータで最も低い3%を日本人に当てはめ試算したところ、20―60歳の患者による年間労働損失額は計約1兆5千億円にも上った。
 
▽SSRIで完治も
 山田さんによると、SADの発症には脳の扁桃体と呼ばれる部位の働きが関係している。患者は扁桃体が過敏に活動して緊張感が増し、身体症状が増大することから、この活動を抑える治療が有効。05年、抗うつ薬などとして使われている選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)「フルボキサミン」の適応が追加され保険も適用された。
 「服用後、半年くらいまでに改善がみられ、1年ほどで薬をやめられる患者も多い。人生が変わったと話す人もいる」と山田さん。副作用のほとんどは飲み始めに出るため、次第に薬の量を増やすことや、症状が消えてからも一定期間は服用を続けることが大事だという。
 SSRIのほかに、間違った考え方を正して不安を和らげる認知行動療法なども併用する。亀井さんは「治療期間から考えても、薬の費用対効果は高い。1人でも多くの人が治療を受けることが重要で、周囲が患者に治療を勧めていける環境が必要だ」と話している。(共同通信 江頭建彦) (2009/01/13)

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