静かに広がる心理療法
心の状態が治療に影響
コンピューターゲームも

がん患者の多くは絶望感にさいなまれる。しかしそうなると、治療成績が悪くなることを臨床医の多くが知っている。病気に向き合う患者の気持ちを変えることで、従来の治療法の効果を上げようという心理的な補完療法が今、医療現場に静かに広がっている。

前向きな気持ちに

  中でも有名なのがサイモントン療法。30年以上前に米国の放射線医サイモントン博士が始め、世界に広まった。日本にも紹介されたが、専門家の不在もあり、一時話題になった程度だった。
 しかし3年前、トレーナーの資格を取った川畑伸子(かわばた・のぶこ)さんが帰国。翌年、特定非営利活動法人(NPO法人)「サイモントンジャパン」を設立し、取り入れる医療機関が増え始めた。今では認定カウンセラーも6人。中には医師も含まれる。
 「絶望感を捨てさせ、どう希望を持たせるか。そのための二本柱が認知療法とイメージ療法です」と川畑さん。
 前者は「私は治らない」「生きる価値がない」など、患者が陥りやすい負の感情を、前向きなものに変えること。後者は瞑想(めいそう)や絵を描くことで、薬や放射線、そして免疫細胞ががんと戦う姿をイメージする。

 ▽人間らしい日々

 60分のカウンセリングを六回程度行うのが基本。「気の持ちよう」を変えるだけで、痛みが消えたり、趣味に生き生きと打ち込みだしたりと、大きく変わるという。
 長期生存する末期患者もいるが、川畑さんは「全員を救えるわけではありません。ただ、延命は望めますし、最後まで人間らしく過ごせます」。
 認定カウンセラーでもある滋賀県の彦根市立病院の黒丸尊治(くろまる・たかはる)緩和ケア科部長は「医師と患者の信頼関係が前提ですが、治療効果は見込め、終末期のがん患者さんも、不安や恐怖をやんわり外してあげると、症状は驚くほど安定します」と話す。
 北海道室蘭市の日鋼記念病院臨床心理科の菊池浩光(きくち・ひろみつ)科長は、札幌デジタル専門学校と共同で約2年かけ、がん患者のイメージ療法用のコンピューターゲーム「プロテクトライフ!」を制作した。
 「がんとの体内戦争はイメージしにくい。リアルなゲームで、楽しく焼き付けることを狙いました」と菊池科長。自分も治療に参画している、と前向きな気持ちを植え付けることにもなる。

 ▽負けないゲーム

 画面でがんの部位を選びゲーム開始。抗体の機関銃弾やT細胞のミサイルで体内のがん細胞を攻撃する。血管内を漂うがん細胞、次が転移がんとクリアし、最後は大きな原発巣を破壊する。
 「患者の体力を考え、全部で約7分間。しかも絶対負けないゲームです」と菊池科長。万一負けると逆効果だからだ。このほか、薬が洪水のように流れてくるとがん細胞が一挙に全滅、抗がん剤の効果をイメージさせたり、援軍もいて「独りではない」との感覚を持たせたり、とさまざまな工夫を凝らした。
 実際に試した患者からも「気分がスーッとした」「一度経験して、イメージできるようになった」と好評。さまざまな免疫細胞の働きもアニメで分かりやすく解説する。
 プログラムを担当した同校の森川悟(もりかわ・さとる)さんは「負けないゲームなんて考えられない。菊池先生とは何度も衝突した」と苦笑するが、「持てるものはすべて注ぎ込みたい」。
 高齢者の患者はマウスの操作が苦手なのを知り、がん細胞の形を模した小型のクッションにスイッチを仕込み、それをたたくことで操作するコントローラーを試作するなど、改良を続けている。


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