治らなかった痛みに有効
人工チューブによる治療
神経再生の成果次々

 京大再生医科学研究所(再生研)の中村達雄助教授、清水慶彦前教授らが開発した人工チューブによる神経再生の論文が、米神経外科専門誌「ニューロサージェリー」9月号掲載が決まり、世界に認められることになった。写真が表紙も飾る。
 事故などで切断・損傷した患者の末梢(まっしょう)神経が、このチューブにより再生してつながり、手足の知覚や機能がよみがえっているが、最近はさらに、外傷や手術の際に傷つけられた神経によって起こる激烈な痛みの治療にも効果があることが分かってきた。
 
 ▽次々と成果
 「『よくなり過ぎる』となかなか信じてもらえなかったが、論文掲載で一山越えた。実用まで少し時間はかかるが、成果は次々と出ている」と稲田病院(奈良市)の稲田有史(いなだゆうじ)院長(整形外科、京大再生研・奈良県立医大講師)。
 開発以来、太さがミリ単位の同チューブによる神経再生手術を120例以上手掛けてきた。顕微鏡手術の技術を駆使して患部で伸びた余分な神経を除いたり、血管を再建して「場」を整え、チューブを植え込む。  末梢神経が事故や手術で切断・切除された場合、体のほかの場所から神経を取って移植することが行われてきたが、長さや太さがうまく合わず、つながっても機能しないことも多かった。
 ところが、そこに人工チューブを埋め込むと、切れていた神経が周囲の組織に邪魔されずにチューブ内を伸び始め、再びつながる。

 ▽激しい痛み
 「今度の論文は2例の報告。いずれも電気生理学的に神経がつながったことを証明し、患部に血流が回復して温かみが戻ったこともレーザー血流計などで明らかにしている」(同院長)
 1例は、ふくらはぎの腓(ひ)骨骨折で神経を損傷し、痛みがひどく靴が履けなかった女性(56)。3年半以上経過し、長さ65mmの人工チューブを入れて神経を再生。2カ月で冷たい部分が温かくなり、3カ月で痛みが取れた。5カ月で電気生理学的反応出てきた。現在は冬山にも登っているという。
 もう1例は、けんしょう炎の指の手術で神経を損傷した男性(62)。強い異常知覚が出て痛みが続いた。24mmと15mmのチューブを入れ、2カ月で血流が戻り、半年から1年で神経の再生が確認でき、痛みも取れた。
 痛みの治療について、稲田院長は「最初は人工チューブを神経が欠損した人の治療に使っていたが、神経損傷による激しい痛みにも効くことが分かってきた」と話す。

 ▽92%で成功
 この痛みはカウザルギー=灼熱(しゃくねつ)痛と呼ばれ、150年前から治らないとされてきたという。外傷や神経損傷の3-5%に起こるとされ、あまりに激しい痛みのため精神まで破壊されてしまうこともある。
 右手の親指と人さし指の間をガラスで切った女性の場合、親指が曲がって動かなくなり、痛みがひどく、死のうとさえしたという。内部で損傷していた神経を人工チューブで置き換え、周囲で伸びていた余分な神経を除いた。半年で痛みがなくなり、指の動きもよくなった。
 これまで24人中、22人(92%)で激しい痛みの除去に成功しているという。
 「痛みというのは、他人と共有できず、大変気の毒な患者さんがたくさんいる。神経の障害がはっきりした人に実施しているが、痛みにも効くというのは衝撃的なことだと思う」と稲田院長。
 中村助教授は「これは魔法のチューブではない。顕微鏡下で行う素晴らしい技術があってこそできるもの」と指摘する。
 稲田病院への連絡はファクス0742(24)0645、または電子メールyuji-829@ja2.so-net.ne.jp


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