くも膜下にモルヒネ投与
激しいがんの痛みに効果
携帯ポンプと皮下ポート

 がん患者を襲う激しい痛み。その多くはモルヒネなどの医療用麻薬(オピオイド)を使えば取り除くことができるが、内服や注射などでは抑えることのできない患者が約5%いるとされる。難治性の痛みに対し、背中の脊髄(せきずい)くも膜の下にカテーテルを挿入してオピオイドを投与する方法が効果を挙げている。

 
▽歩いて帰宅も

 取り組んでいるのは大分大病院緩和ケア支援チームの服部政治医師。きっかけは2000年に米国に留学した際、皮下埋め込み型ポンプによるくも膜下オピオイド投与の効果を目の当たりにしたことだった。
 「日本では内服や静脈注射のオピオイドを使っても痛みが取れない場合、ほかに痛みを取る方法がなかった」と服部医師。このため、大量にオピオイドを投与し、眠ったような状態にしてしまうことが多かったという。
 ところがニューヨークのスローン・ケタリング記念がんセンターでは全く違った。オピオイドが入った小型ポンプを腹の皮下に埋め込み、くも膜下にカテーテルで持続投与していた。痛みのため叫びながらストレッチャーに乗せられて来た患者が、処置後は歩いて帰って行った。
 

▽皮下に刺し口
埋め込み型ポンプを使ったくも膜下オピオイド投与は、米国、ヨーロッパ、シンガポール、インド、韓国など「がんの痛みの管理が行われている国では常識になっている」と服部医師。だが帰国後に使おうとしても、国内にはこの用途で承認されたポンプがなかった。
 くも膜下に挿入したカテーテルを体外設置型のポンプに直接つないでオピオイドを投与する方法は、一部施設で行われていた。しかし、皮膚からカテーテルが出ているため感染の恐れが大きく、引っ掛かって抜ける事故も多かった。カテーテルの観察と消毒が必要なため、退院は困難だった。
 そこで服部医師は、注射針の刺し口となるポートを胸などの皮下に埋め込み、皮膚の上から注射針を刺して携帯型ポンプからオピオイドを投与する方法を考案した。くも膜下に挿入したカテーテルとポートは皮下でつながれているため、感染の危険性は低い。ポンプは首から下げられる程度の大きさで、自宅での使用も可能。ポートから針を抜いてポンプを外せば入浴もできる。
 

▽副作用も減少

六月までに六人の患者に実施。いずれも内服や注射薬では痛みが取れず、体を動かしただけで叫び声を上げるほどの痛みに苦しんでいた。それが、くも膜下にカテーテルを挿入し、オピオイドを投与し始めた途端にスーッと体の力が抜け「楽になった」と涙を流して喜んだ患者もいた。
 がんの症状にもよるが、ほとんどの患者は退院し、自宅近くの病院で診てもらいながら、亡くなる直前まで痛みがほとんどない状態で家族と過ごすことができたという。
 オピオイドには吐き気、眠気、便秘などの副作用があり、使用量が多くなるほど目立ってくる。しかし、くも膜下投与は中枢神経の近くにオピオイドを直接入れるため、内服や注射に比べて使用量が大幅に少なく、副作用もほとんど出ない。
 「海外では埋め込み型ポンプの利用が当たり前の治療法になっているのに、国内ではがんの痛みに取り組む医師自体が少ない」と服部医師。「くも膜下オピオイド投与は、やれば確実に効果を実感する。効果が分かれば取り組む医師は増えると思う」と期待している。






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