広がる遺体の画像診断
CTで撮影し死因を究明
医療安全に威力期待
 患者の遺体をコンピューター断層撮影装置(CT)を使って画像解析し、死因を探る取り組みが医療現場で広がりつつある。
 「死亡時画像病理診断」(Ai)と呼ばれ、遺体が傷つくとして敬遠されがちな解剖を補完する新たな手段として注目されている。
 映画化され大ヒットしたベストセラー小説「チーム・バチスタの栄光」の中でも、心臓手術中に連続して起こる患者の死の謎を解く鍵として脚光を浴びた。
 遺体の情報を正確に記録できることから、死因をめぐる医療機関と遺族とのトラブルを防ぐとともに、医療事故の再発防止など安全確保に役立てようとする動きが進む。
 
▽ボイスレコーダー
 2007年10月。肺リンパ脈管筋腫症を患い、肺移植を検討していた千葉県在住の50代女性が、自宅で突然頭痛を訴え、意識を失った。
 千葉大病院に救急搬送された際に脳幹出血の疑いがみられ、2日後に死亡。遺体をCTで撮影して生前の画像と比べたところ、肺の病気は進行しておらず、やはり脳幹出血が死因と確認された。
 通常の病理解剖だけだったら、肺の病気の悪化による呼吸不全が死因と判断された可能性が高いケースだった。
 「死亡時の状態をありのまま残せるのがAiの一番の利点。どんな診療が行われたのかが分かり、医療の『ボイスレコーダー』の役割が期待できる」と同病院放射線科の山本正二講師。
 千葉大病院は05年からAiを導入し、このほど実施例が100を超えた。専用のソフトを使い、CTで撮影したデータの中から骨や内臓など調べたい部位だけを抽出し、再構成した画像を作製することも可能だ。
 9月16日、放射線科の担当者らで組織する「Aiセンター」を正式に設立。今後は病院内で患者が死亡した場合、遺族の同意が得られればすべてのケースでAiを実施する方針。
 
▽死因判明は半分以下
 Ai学会によると、札幌医科大など少なくとも全国12の医療施設がAiを実施できる体制を整備。群馬大も9月、同様のセンターを立ち上げ、学会への申請準備中だ。
 厚生労働省はAiの普及に期待を寄せ、創設を目指す医療版の事故調「医療安全調査委員会」(仮称)への導入も視野に入れる。
 「真実が明らかにならないために遺族との紛争に発展するケースがある。Aiはしっかりとした証拠に基づいて死因を説明できる手段の1つ」と同省医療安全推進室。
 ただ〝先進地〟の千葉大病院でも専用のCTはなく、入院や外来の患者が使用しない早朝や昼休みを見計らって実施しているのが実情だ。普及を進めるに当たり、1回数万円の費用を誰が負担するかという課題もある。
 期待されるAiだが、すべての死因が分かるわけではない。体内の出血や骨折の発見には威力を発揮する一方、心筋梗塞などを見つけるのは困難だ。
 伊東久夫千葉大教授は「Aiで死因が分かるものと分からないものを明確にしておく必要がある。何でも分かるという誤解が生まれると、将来下火になるのではないか」と懸念する。
 遺体の画像の研究は始まったばかりで、より正確な死因診断のためには症例の積み重ねが必要。
 山本講師は「研究を重ねてもAiで死因が分かるのは全体の5割程度だろう。解剖などと組み合わせてよりよい方法を作り上げていく必要がある」と指摘している。(共同通信 鳥成慎太郎) (2008/10/21)

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