進まぬ職場や地域での備え
上場企業でも1割程度か
高い致死率、大流行の恐れ
 世界的な大流行(パンデミック)が懸念される新型インフルエンザ。感染すると致死率が高く、日本での死者は64万人にも上ると推定される。「いつ発生してもおかしくない」「どこで起きても、すぐに世界中に広がる」。専門家から警告が出るが、自治体や企業などの対策はまだ道半ばだ。
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 「基本的なデータが不足している」「都道府県の医療体制が思ったほど進んでいない」。7月30日、都内で開かれた厚生労働省主催の新型インフルエンザ専門家会議では、問題点が次々と指摘された。
 新型が流行した場合、企業や自治体などの職員の欠勤率は最大40%に上ると厚労省はみる。しかし、出勤者数などを想定して重要業務を維持するための対応を盛り込んだ「事業継続計画」(BCP)など具体的な対策を策定しているのは、上場企業でも1割程度とみられ、有事の対応策づくりは立ち遅れているのが実情だ。
 
▽絵に描いたもち
 「米国ではすでに金融機関など各業種で発生した場合を想定した訓練が行われている。2003年ごろに海外で新型肺炎(SARS)が流行した際、日本も感染症への対策の必要性に迫られたのに、教訓が生きていない」。田代真人・国立感染症研究所ウイルス第三部長は懸念する。
 企業だけでなく、自治体の状況も厳しい。  対策本部の設置など、おおまかな方針を盛り込んだ「行動計画」についてはすでに全都道府県で整備されている。しかし総務省消防庁が調査したところ、今年3月時点で都道府県のうちBCPまで策定したのは1カ所だけ。
 厚労省の難波吉雄新型インフルエンザ対策推進室長は「市町村レベルでのBCPについても、つくったという話を聞いたことがない。BCPがなければ、行動計画があっても実際に人の手配ができず、絵に描いたもちだ」とこぼす。
 また患者発生時の移送方法について、消防庁が各都道府県に「医療機関などと協議し定めているか」という質問をしたところ、「定めている」はわずか11自治体。「定めていない」が22自治体、「協議中」が14自治体だった。
 
▽水際で完封は困難
 新型インフルエンザは鳥インフルエンザウイルスが変異し、ヒトからヒトへ感染することによって大流行する恐れがある。
 03年11月から今年9月10日までに、世界15カ国で強毒性のH5N1型ウイルスでのヒトでの発症が387人確認され、245人が死亡。日本ではヒトでの発症は未確認だが、鳥の感染は04年から8道府県で確認されている。
 新型が発生した場合、世界保健機関(WHO)から各国に連絡が入る。発生国からの入国検査を厳格化する「水際作戦」がとられるが、最大で10日とされる潜伏期間内に、本人も感染に気付かないまま国境を越えることもあり、完全に防ぐのは難しい。
 厚労省はこれまで、発生時の国内での死者数について「最大で約64万人」と推計。しかし「死者はもっと多いはず」との指摘が多く、見直し作業を進めている。
 WHO西太平洋地域事務局で感染症対策に携わった押谷仁・東北大教授は言う。
 「地震などの災害と違い、新型インフルエンザは日本中でほぼ同時に流行が起きる。ほかの地方からの救援は難しく、自分たちの身は自分たちで守るしかない。発生時に具体的にどうするか、地域や家庭ごとにきめ細かい計画を立てることが大きな課題だ」。(共同通信 船木敬太) (2008/10/14)

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