「孤立する患者たち-7」
厚い壁、原告になって痛感
お産で長男に障害の医師 
 8月20日、福島地裁。医療界がかたずをのんで見守る中、福島県立大野病院事件の判決が言い渡された。
 29歳の女性が帝王切開で出産直後、大量出血して死亡。被告の加藤克彦医師(40)に無罪が告げられると、傍聴席の遺族は肩を落とした。
 「今後、地域医療の現場で精いっぱいやっていきたい」。判決後の記者会見で、加藤医師は抱負を語った。
 無罪は当然とする全国の医師ら。他方、医療事故の当事者となった患者の家族は懸念を示す。
 「今回の判決を機に、医師の裁量が際限なく認められるとすれば…。患者や遺族は救われない」
  ×  ×  × 
   中部地方の診療所に勤める男性医師(32)は、医療過誤訴訟の原告だ。
 長男(4)の知的障害をめぐって二〇〇六年三月、出産時の診療に問題があったとして開業医を相手に提訴。
 「弁明ばかりで誠実に対応しようとしない医療側の姿勢を、初めて体感した」。訴訟を通じ、医療界に身を置きながら見えなかった真相解明への壁を痛感したという。
 03年11月、長男は仮死状態で生まれた。呼吸障害による低酸素症に陥ったが、自宅近くの産科医院から施設が整った病院への搬送は32時間後だった。
 妻は激しい陣痛の中で出産。「陣痛を促す目的で、妊婦への投与が禁じられた薬が使用された。危険性について十分な説明もなかった。(医院側が)息子の容体の監視を怠り、障害が残った」と医師。開業医は「因果関係が不明」と反論しているという。
 提訴後、インターネットの掲示板に自分への批判が書き込まれた。
 〈医師による監視が不十分だったというが、あなたは始終、患者についていられるのか〉  やりきれない気持ちになった。
 妻や子供をお産で亡くした家族の集会にも参加。〝同志〟が法廷闘争に疲れ果て、悩む姿を目の当たりにした。
 「医師である自分の周りには、理解を示してくれる医療関係の知人がいる。だけど専門知識や頼る人脈がない人は行き場を失ってしまう」  長男は、同い年の子供に比べ2年ほど発達が遅く、手足の動きが不自由だ。「息子には申し訳ないことをした」と医師。だが今はもう、多くを語りたくないという。

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