手術後の突然死を防げ
静脈の血栓症抑制に新薬
国内でも承認
 足などの静脈にできた血栓が飛んで肺の動脈をふさぎ、死亡することもある静脈血栓塞栓症は「エコノミークラス症候群」などとして有名だが、手術後の突然死の原因にもなっていることは意外に知られていない。こうしたケースで発症を抑える新薬が国内でも承認され、効果的な予防につながると期待されている。
 
▽腹部手術の24%で
 血液の流れが悪くなったり、固まったりしてできる血栓が問題になりやすいのは、下肢や骨盤内の深いところにある静脈。ここに血栓ができる病気は深部静脈血栓症と呼ばれ、血栓が成長すると一部が塊から離れて血流に乗り、心臓を通って肺動脈を詰まらせる肺血栓塞栓症に至る。二つの病気の総称が静脈血栓塞栓症だ。
 手術でリスクが高いとされるのは、四肢や股関節の整形外科手術と腹部の手術。整形外科では、ひざの人工関節手術で深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症の発症頻度が、それぞれ約50%、約1%というデータなどがある。腹部でも約220例を調べた結果、静脈血栓塞栓症の発症率が約24%だったとする調査がある。
 
▽1時間以内に死亡
 海外の指針を参考に、2004年に国内でつくられた予防指針によると、外科では過去に塞栓症になった人や、40歳以上のがん患者の大手術が特に問題となる。この病気に詳しい左近賢人・西宮市立中央病院(兵庫県)院長は「がん細胞は血を固めやすくするさまざまな物質を出す上、血管の内皮細胞に障害を与え、血液の凝固機能を活性化させる」と説明する。
 急性の肺血栓塞栓症による死亡の40%超が発症から1時間以内で「発症したときには、ほぼ亡くなった状態といっていい」と左近院長。さらにやっかいなことに、この病気の3分の2以上は血流が保たれているため症状が乏しい「浮遊血栓」というタイプ。診断するのは難しく、予防が何より重要だという。
 予防には①手術後できるだけ早く歩行や運動を始める②ストッキングをはいて静脈を縮小させる③下肢に巻いたバンドのようなものにポンプで空気を送り圧迫する「間欠的空気圧迫法」(IPC)―など、血流の停滞を防ぐ理学的方法のほか、薬物療法がある。
 日本では長年、血液の凝固を阻止するワルファリンカリウムやヘパリンナトリウムという薬が中心だったが、欧米などで広く使われている「フォンダパリヌクスナトリウム」(一般名)が昨年、下肢の整形外科手術で承認され、今年5月には腹部の手術にも使えるようになった。1日1回、皮下注射する。
 
▽中心因子のみ阻害
 「血液凝固で中心的な働きをする因子だけを阻害するのが特長。出血に注意し患者ごとに慎重に判断する必要はあるが、これまでの薬に比べ出血は起こりにくいと考えられる」と左近院長。
 手術後にこの薬を投与した場合とIPCを行った場合とを比べた臨床試験では、静脈血栓塞栓症の発生頻度はIPCの約18%より低い約11%。海外では、IPCとの併用が効果的だとするデータも出ている。
 現在の予防指針には新薬は盛り込まれていない。中村真潮・三重大講師(循環器内科)は「現在の指針は発展途上的なもの。日本人でもデータが集積されつつあり、近い将来、改定されるだろう」と話している。
 国内ではフォンダパリヌクスのほか、注射剤の「エノキサパリンナトリウム」(一般名)も今年1月、人工股関節やひざ関節などの手術で承認され、腹部の手術への適応拡大を申請中。(共同通信 江頭建彦) (2008/09/02)

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