「孤立する患者たち-5」
病床で「もう駄目だね
研修医の言葉に激しい怒り 
 「テーブルに着く前から、すでに双方の間に深い溝があった」
 昨年5月に都内の病院で亡くなった水泳インストラクター、菅野貴規さん=当時(25)=の遺族と病院側の話し合いに同席した和田仁孝早稲田大大学院教授は指摘する。
 話し合いは「裁判外紛争処理(ADR)」と呼ばれ、第三者を交え円満解決を目指す手続きだったが、昨年12月の1回だけで、病院側が継続を拒否。
 和田教授は紛争処理論が専門で、オブザーバーとして関与。「もっと早期に、医師が遺族の声に耳を傾けるなど、何らかの手を打てなかったのか」と話す。
 貴規さんが亡くなる前日のことだった。  「もう駄目だね」
 荒い息で苦しむ貴規さんを家族が見守る病室で、居合わせた研修医がつぶやいた。泥が付いたスニーカーをはいていた。
 遺体の解剖後、貴規さんの祖父(81)の怒りが爆発した。「病室にあんなに汚い靴の人間を入れるとは、一体、患者を何だと思っているんだ」
 数日後、病院側から「不謹慎な態度をとった」と謝罪の手紙が届いた。当時、病室には複数の研修医が出入りしていたため、人物の特定はできないと書かれていた。
 「研修医のあの言葉が、不信の始まりだった」と父雅敏さん(54)。  昨年12月のADRの後、雅敏さんは便せん5枚にわたる直筆の手紙を、病院に送った。
 〈以下の事、よろしくお願い致します。主治医ら2人の医師の謝罪を書面に。弁解ではなく…〉
 年が明け、警察にも相談した。
 対する病院側。
 「遺族側の動きが耳に入り、すぐに顧問弁護士を交え対応を協議した」と関係者は打ち明ける。これ以上長引かせても、先の見えない交渉が続くだけ―。弁護士の見解に、異論を唱える者はいなかったという。
  ×  ×  × 
   8月初旬。記者は再びこの病院を訪ね、主治医らの上司である呼吸器内科トップの医師に面会を求めた。
 「私は答えてはいけないことになっている」  受付から電話すると、医師は取材を拒んだ。それでも食い下がると、ようやく重い口を開いた。
 「主治医らはさまざまな機会に、ご家族への説明を尽くしました。それでも納得していただけないのなら、仕方ない」

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