顔の人工骨移植、本格開始
オーダーメードで欠点解消
0機関で臨床試験 
 事故や病気で骨が欠けたり、足りなくなったりした場合に行われる骨の移植。東大などのグループは、成形の難しさなど従来の方法の欠点を解消し、移植する部位にぴったりフィットする“オーダーメード人工骨”による治療法を開発した。ほおやあごなど顔面に移植が必要な患者に、全国10の医療機関で臨床試験(治験)を始める。
 
▽使い勝手に難
 国内では、自分の腰骨などの大きな骨を摘出し、成形した後に移植する自家骨移植が最も普及している。自分の骨のため移植後にくっつくのが早いのがメリットだが、患者に痛みや摘出部位の変形などの負担を強いる上、使える骨の量も限られる。
 人工骨ならば患者の負担や量の制限はないが、骨の主成分リン酸カルシウムを焼き固めた従来品は、縮むなどして患者の骨とくっつかず、皮膚を突き破ってしまうケースもある。
 さらに、いずれの骨も成形が難しいという共通の問題がある。顔の骨の形状は非常に複雑なため、移植する骨には高い精度が必要。移植しようとしてもフィットせず、手術室で医師が骨を削るなどして手術時間が長引く傾向にある。鄭雄一東大教授(骨・軟骨再生医療)は「自家骨も人工骨も使い勝手は決して良くない」と話す。
 形状の高い精度に加え、移植後は骨にくっつき、最終的に患者自身の骨に置き換わるという、二つの条件を満たす人工骨が待たれていた。
 
▽プリンターを応用
 鄭教授らがベンチャー企業と協力して開発に取り組んだオーダーメード人工骨は、患者のコンピューター断層撮影(CT)の画像などから必要な人工骨の3次元モデルをつくる。これを薄くスライスしたものが「設計図」となる。
 骨の作製にはインクジェット式プリンターの仕組みを応用。紙に当たる厚さ0・1ミリのリン酸カルシウムの層に、インクの代わりの接着剤を設計図に基づいて吹き付ける。これを繰り返して層を積み重ね、立体的な人工骨を作りあげる。
 ぴったりフィットするのはもちろん、焼き固めていないため移植先の骨とくっつくのも早い。内部には患者の細胞や血管が入る穴が開けられており、患者の骨に置き換わるのも早くなるという。
 10人の患者にこの人工骨を移植した結果、3カ月ほどで移植先の骨とくっつくのが確認されるなど、良好な結果が得られた。大きな人工骨を移植する場合は、骨を2つに分割すればフィットしやすいことが分かるなど、改善も重ねてきた。
 
▽強度には課題も
 10機関の臨床試験では、70人を目標に人工骨の有効性と安全性を評価する。2011年春に医療機器として国に承認申請するのが目標という。
 東大の高戸毅教授(口腔外科)は、口蓋裂などの先天性な骨の形成不全、舌がんの手術や事故による骨の欠損など、この移植を使える患者は国内に4万―5万人とみている。高齢化の進展で骨粗しょう症による骨折や骨の欠損が増加していることから、人工骨へのニーズはさらに高まると予測されるという。
 「顔は人目に付くだけに患者の人付き合いや外出、心理面などに影響を与えることも多く、治療による効果は大きい」と、高戸教授。
 今回開発された人工骨はやや強度が足りないため、当面は後頭部などの荷重がかかる部分には使わない。鄭教授は「金属と複合させるなど強度面の改善を加え、将来は手足の骨や背骨などにも使えるようにしたい」としている。
 臨床試験の実施機関は東大病院のほか独協医大病院、埼玉医大病院、東京歯大市川総合病院、順天堂大順天堂医院、鶴見大歯学部病院、京都大病院、大阪医大病院、大阪市立総合医療センター、神戸大病院(共同通信 新居一樹) (2008/08/26)

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