「孤立する患者たち-4」
たった一度の〝話し合い〟
息子の死に疑念消えず 
 7月下旬、外来患者で混雑する都内のある大病院を、記者は訪ねた。
 全国有数の規模を誇るこの病院が、1人の男性患者の死をめぐり、遺族との「対話」を一回だけで打ち切った理由を知りたかったからだ。
 亡くなったのは東京都葛飾区の水泳インストラクター菅野貴規さん=当時(25)。死因は急性骨髄性白血病だった。
 背泳ぎの選手として、高校時代にリレーで全国3連覇。「未来の五輪代表を育てたい」との夢を抱きながら、妻と一人娘(2)を残し、集中治療室で息を引き取った。
 主治医は体調不良とのことで、代わりに治療チームの中心となった男性医師に面会を求めた。
 1時間余り待った記者に、女性看護師が医師の伝言を告げた。
 「お話しすることはありません」
  ×  ×  ×
 2006年11月の入院時、貴規さんは肺がんと診断され、5カ月後の07年4月に片方の肺を摘出。だが、激しい頭痛を訴え再入院し、約1週間後に死亡した。
 「肺がんと白血病の合併という非常にまれなケース」
 病院側の説明に、貴規さんの父雅敏さん(54)は「容体急変について、詳しい情報開示がない」と憤った。カルテの添付資料を見た途端、疑念が一気に膨らんだ。
 資料には、白血病の発病時期について「07年1月」とあった。白血病患者は免疫力が落ち、外科手術を受けると、感染症のリスクが大きい。
 「肺の摘出手術を強行していなければ、貴規は今も生きていたかもしれない…」
 昨年末、遺族と病院側は第三者の弁護士が立ち会う中、約3時間にわたって意見を交わした。「裁判外紛争処理(ADR)」と呼ばれ、双方の話し合いによる円満解決を目指す手続きだ。
 遺族側は「手術の時点で、医師は白血病に気付いていたのではないか」と主張。主治医はそれを否定し、資料の記載について「単なる誤り」と説明。診療に問題はないと繰り返した。  その4カ月後、雅敏さんに病院から手紙が届いた。読んだ途端、体中の力が抜けた。  〈疑問や不信を消し去ることは、これ以上は難しいと判断せざるをえません。今後はご質問に対応することは控えさせていただきます〉  〝最後通告〟だった。

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