「孤立する患者たち-2」
妻への内診に「セクハラ」
お産の現場でも深い溝 
 今年5月、東京・新宿区のオフィスビルの一室。日本産科婦人科学会所属の医師ら数人が緊急会見を開き、周産期医療の窮状を訴えた。その1人、愛育病院(東京都港区)の中林正雄院長(65)は、お産の現場でも「モンスター患者」に手を焼く実情を報告した。
 「検温に失敗した助産師が怒鳴りつけられた」「個室が空いていないことに腹を立て、大声で威嚇」…。過去1年間に同病院で起きたトラブルは、いずれも妊婦に付き添って訪れた夫による被害。内診をした男性医師が「セクハラ(性的嫌がらせ)だ」と抗議されるケースもあった。
 中林院長はため息混じりに言う。「お産は病気じゃないから、『無事で当たり前』という意識が患者側に強く、病院が何でも聞き入れてくれると錯覚している」
  ×  ×  ×
    千葉県北東部の中核病院である国保旭中央病院(同県旭市)。産婦人科待合室で、医療の激変ぶりを象徴するような2枚の掲示文を見つけた。
 1枚は2001年に張られた。  〈お産では、思いがけない経過となり、それをも乗り越えなければならないことが、どなたにも起こりえます〉
 事故のリスクに理解を求める内容だが、行間から患者への「遠慮」が伝わる。当時、都立広尾病院の誤投薬や横浜市大病院の患者取り違えなど、大病院でミスが相次ぎ医療不信が高まっていた。
 もう1枚は昨春から掲示。  〈残念なことが起きたとしても、多くの場合は『そういう体だったことが原因』とお答えするほかありません〉
 1枚目とは対照的に、突き放すような表現。  これが張られた前年、日本中の医療現場を揺るがす〝事件〟が起きた。福島県立大野病院で手術中に大量出血した妊婦の死亡をめぐり、警察が産科医を逮捕。「医師に落ち度はない。こんなことで訴追されるようなら、もう診療などできない」との声が医療界から嵐のようにわき上がった。
 書いたのはいずれも同科部長の宇田川秀雄医師(59)。
 「医療には限界があるのに、患者はそれを受け入れてくれない。われわれとの間に、埋めがたい意識のギャップがある」
 2枚のメッセージに、患者側からの反応はないという。
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