暮らしの医療にやりがい
介護と連携し生活支える
診療所院長の1日
  病を得ても住み慣れた自宅や地域で自分らしく暮らし、最期も迎えたい。そんな患者の希望を支えるのが在宅医療だ。その担い手として「在宅療養支援診療所」が制度化されて丸2年。課題も多いが、徐々に広がりつつある。
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「在宅医療は暮らしの中にある医療。治療と同時に患者の日常生活の向上にも貢献できる。やりがいを感じます」―。栃木県栃木市にある医療法人アスムスの「蔵の街診療所」。ここで在宅医療に取り組んで4年目を迎えた福地将彦院長(37)の、ある1日を追った。
 診療所での診察は午前九時から正午まで。診療所が開くと、待ちかねたようにお年寄りが次々と来院した。「お変わりありませんか」「最近、よくせきが出て」…。
 話は病状から旅行や子ども、孫らの近況まで広がっていく。「雑談で患者の背景がよく分かる。治療にも役立つことが多いんですよ」
 この日の診察は14人。内科医でここにくる前は9年間、病院に勤務した。「病院では30―40人を診ますから、こんなに時間はとれない。数分の診療でその人のことが分かったように思っていたのが恥ずかしい」と振り返る。
 午後1時半すぎから、看護師が運転する車で訪問診療に出掛けた。診療所から車で15分程度がエリアだ。この日は6人の患者宅を回る。
 
▽家に帰り笑顔戻る
 最初は認知症の男性(80)。肺炎で入院し、この日、退院してきた。訪問看護ステーションのスタッフも駆けつけた。「ここはおうちですよ」と呼び掛けると、笑顔で応える。家族は「家に帰ってきて、表情がよくなり話もするようになった」と喜んだ。
 この日に訪問したのはいずれも認知症高齢者で、複数の慢性病を抱えている。5人目の男性(81)もやはり重度の認知症の上、管で栄養を取り、肺の機能の低下で酸素療法も続けていた。
 「家に帰りたい」と退院して約1カ月半。当初に比べ落ち着き、笑顔もみせるようになってきたため、この日は介護保険のケアマネジャーが中心になって担当者会議が開かれた。
 集中的に取り組んできたケアの態勢を、今後どうするかが議題。福地院長が病状を説明し、集まった訪問看護師やホームヘルパー、福祉用具担当者らが家族の要望も聞きながら話し合う。
 6人目の患者宅を訪問して、診療所に戻ったのは午後6時近かった。この間、携帯電話に何度も入った連絡の対応にも追われる。
 
▽消えた後ろめたさ
 診療所が受け持つ在宅患者は約50人。通常は1人の患者を隔週で訪問診療する。訪問看護が別の隔週に入り、週に1回はどちらかが訪れる形だ。もちろん24時間対応なので、緊急時は時間を問わず往診に走る。
 アスムスは「蔵の街」も含め3つの診療所を持つ。常勤と非常勤の計9人の医師のうち六人で当番を決め、夜間や土日の対応に当たる。それぞれ専門が違うため、患者を共有することでグループ診療のメリットも生かせるという。
 福地院長がこれまでに在宅でみとった患者は40人近い。「家族に囲まれて静かに息を引き取られたときのお顔は、間違いなく病院のときとは違うんですよ。穏やかで」。在宅医療に携わってよかったと思うときだ。
 病院勤務では、助からないと分かっていても心臓マッサージや輸血、血圧を上げる薬などを投与してきた。「本人が望んでいるとは、とても思えない。世間体も含めて家族のためなんです」
 そういう場を何回も経験し「これでいいのだろうか」という気持ちがずっとあったことが、在宅医療に向かうきっかけだった。「いまは当時感じていた後ろめたさがなくなりました」と笑った。(共同通信 高瀬高明) (2008/05/13)

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