変わる医療事故調査
専門家の目で原因究明
「なぜ」の解明に期待
 医療事故の原因を調査する専門組織(医療事故調)を創設する作業を政府が進めている。「なぜ事故は起きたのか」「病院は真相を隠そうとしているのではないか」。患者や家族が求める公正な原因究明や再発防止は実現するのだろうか。
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 「病院から誠意のない対応を受け、絶対許せないという気持ちだった」。3月、東京都内で医療事故被害者らのグループが開いた集会で、東京都葛飾区の豊田郁子さん(40)は壇上で力を込めた。
 豊田さんは2003年3月、長男の理貴ちゃん=当時(5)=を医療事故で亡くした。都内の病院で、入院から約5時間後の急死。腸が2カ所でねじれた重症の腸閉塞だった。苦痛を訴え苦しんでいたのに、病院側は適切な治療をしなかったという。
 悲しみと混乱の中、豊田さんが知りたかったのは「息子はなぜ死亡したのか」「医師はなぜ全力を尽くしてくれなかったのか」という点だ。しかし病院側は「医師は最善を尽くした」と繰り返すだけ。当初は謝罪の言葉すらなかったという。
 
▽医療の委縮も
 もし家族が医療事故に遭ったら…。最近は病院側がすぐにミスを認めて謝罪することもあるが、豊田さんのように医療機関の壁の厚さを痛感させられることは珍しくない。「真相を知りたい」と警察に届けたり、裁判に訴えたりする被害者もいるが、期待通りの結果が得られるとは限らない。
 豊田さんの場合、病院相手の訴訟は「双方が勝ち負けを争う方法では解決にならない」と断念。警察に被害届を出したが、捜査状況はほとんど教えてもらえず、最終的に医師は不起訴になった。
 一方、医療関係者の側にも、捜査機関の介入や医療訴訟の多発に不満がある。トラブルを避けようという気持ちが強くなり「医療が委縮している」との指摘もある。
 こうした中、国による初の死因究明組織として注目されるのが、厚生労働省を中心に検討が進む「医療安全調査委員会(仮称)」だ。国土交通省の「航空・鉄道事故調査委員会」になぞらえ、専ら「医療事故調」と呼ばれる。委員は複数の医師や法律家、患者の立場を代表する市民らで構成。遺体の解剖やカルテなどの分析、関係者からの聞き取りを通じて事故原因を明らかにする仕組みだ。
 厚労省は2010年のスタートを目指し、昨年四月に有識者による検討会を立ち上げ、医療事故被害者の代表として豊田さんも委員となった。
 
▽公正、中立が基本
 新制度で医療現場はどう変化するのか。
 事故が疑われる死亡事例が発生した場合、現在は医師法の規定で、医療機関は24時間以内に警察に「異状死」としての届け出をしなければならない。まず警察が故意や過失などの事件性がないかどうかを調べる。
 これに対し、新制度では医療機関は警察ではなく、事故調への届け出を義務付けられ、遺族も調査依頼が可能になる。国が設置する公的な機関が「公正・中立」を基本に原因を調査。その結果、医療機関側にミスがあった場合、事故調は再発防止策を提言する。医師個人や医療機関は行政処分の対象となる。
 豊田さんのケースでは、警察が行政解剖結果を明らかにしなかったことを理由に、病院側は「死因が分からない」とミスを認めず和解まで約2年半かかった。「当時、事故調のような組織があれば、病院の対応も変わっていたはずだ」と豊田さん。医療の専門家ではない警察と比べ「事故調による調査結果は、医療機関側も受け入れやすい」(厚労省関係者)というメリットも期待されている。
 検討会で豊田さんは、遺族にも分かりやすい手続きや、遺族と病院との対話の必要性など、新組織に積極的に注文を付けている。「医療事故の原因をきちんと究明した上で、遺族と向き合う。それが当たり前のこととして医療界に根付いてほしい」。それが豊田さんのいちばんの願いだ。(共同通信 永井一義) (2008/04/15)

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