「患者と向き合う医療を」
愛娘失った父
だれもが医療事故に巻き込まれる可能性がある。最愛の家族を失った遺族は、厳しい現実とどう向き合っているのか―。
 手術室に入ってから8時間半後に対面した娘は、変わり果てた姿でストレッチャーに横たわっていた。むくんだ顔に鼻血の痕跡。いったい何が…。
 東京女子医大病院で心臓手術を受けた平柳明香さん=当時(12)=が亡くなったの2001年3月。父親の利明さん(57)は当時を振り返って言う。「命を落とす危険性はほとんどないと聞いていた。短時間で終わる簡単なオペと」
 手術中の人工心肺装置のトラブルで脳障害を起こしたことが原因だったとされる。だが当初、執刀医からは満足できる説明がなく「何かを隠しているのではないか」との疑念を抱いたという。
 歯科医として医療界に身を置く平柳さんは「医療機関には事故を隠ぺいする体質がある」と話す。「担当医は前面に出るな」「絶対に謝るな」。大学病院に勤務していた当時、そんな会話を耳にした記憶もある。
 多くの親族が「寿命だったんだ。そっとしておいた方がいい」と進言。しかし、真相を解明し再発防止に生かさなければ娘の死が無駄になる、との思いが背中を押した。
 弁護士との相談を重ね、同年5月にカルテなどの証拠保全に踏み切った。さらに、詳しい調査を求める手紙を病院に送ったこともあった。
 事故から7カ月後。病院側は内部調査の結果をまとめた。瞳孔の大きさや投与した薬剤の量について、診療記録が改ざんされていたことを認める内容だった。
 あれから七年。今も納得したわけではない。「いつまでも病院を恨んで癒やされるものでもない。最終的に誠意ある対応を受けた。区切りをつけて前に進もうということ」と平柳さん。自らのつらい体験を踏まえ、医師と患者が腹を割って向き合えるシステムの必要性を強く感じている。
 医療事故については医師らの刑事責任を免除すべきだとの意見もあるが、「一部の医師が声高に言っているだけ。患者の信頼が確立される前に、そこまで求めても決して国民に受け入れられない」と批判する。
 1月に都内で開かれた医療事故防止をテーマとするシンポジウム。パネリストとして招かれた平柳さんは会場にいた多数の医師にこう呼び掛けた。「医療側が自ら真相を明らかにする姿勢を示し患者の信頼を得られれば、刑事責任を追及する動きは自然となくなるはず。警察が介入する状況をなくすためにも、努力していきませんか」 (2008/04/15)

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