「みとり-1」
「すべきことはできた」
家族も納得した旅立ち
 「穏やかな表情で、だんだんと遠くにいくような不思議な感じでした」。東京都江東区の山内美津子さん(60)は昨年2月、父親の良平さん=当時(85)=を自宅でみとった。胃がんでの療養生活は5カ月に及んだが、枕元にはいつも家族の誰かが付き添い「父も喜んでくれたと思います」。
 良平さんが肺炎で病院に入院したのは、その前年の6月。3カ月後に胃がんが見つかったが、それまでの病院の対応に不信を持っていた美津子さんは「もう任せられない」と家に連れて帰ることにした。
 「父もずっと帰りたいと言っていましたし、それをかなえるのが親孝行かなと」。だが、父親と2人暮らしの上、美津子さんは仕事を持っている。「あと1カ月かもしれない」とも言われたこともあって、内心は不安でいっぱいだった。
 それを支えてくれたのは近くのホームケアクリニック川越(川越厚院長)だった。末期がん患者らの在宅ホスピスに取り組んでいる。伝え聞いて飛んでいくと「大丈夫、あなた1人でもみられるようにします」。
 退院翌日から往診や訪問看護が始まり、妹やめいも分担して介護を手伝ってくれることになった。病院では体が弱っていくのが目に見えた良平さんだが、帰宅すると元気を取り戻したという。
 寝たままではあったが、好きなうなぎやそばも食べ、寄ってくれる近所の人との会話も楽しんだ。無理かなと思っていた母親の七回忌の法要も車いすで出席できた。  「すべきことは全部できた。これも先生やスタッフのおかげでした」と美津子さんは振り返る。不安に駆られて電話すると、夜中でも駆けつけてくれた。一番の心配だった痛みも抑えてくれた。
 医療の処置だけではない。家族みんなを集めて、父親がどういう状態なのか、それをみていくというのはどういうことなのか、などを丁寧に説明してくれた。
 「先に先にと、こちらの気持ちをくんで家族のケアもしてくださり、安心もし、納得もできた。父はいなくなったんですが、心の中ではまだ生きている状況にしてくださったんですね」
 川越院長は「愛する人が最終的に死を迎えるわけだから、家族の心は揺れ動く。そこをしっかり受け止め、精いっぱい支えていくことが、在宅でのいいみとりにつながる」と話している。 (2008/03/18)

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